主要
□「ブラッドスパイラル」
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真っ赤に染まる朱色………
視界が歪み、誰かが襲ってきた
「兄貴……………?」
端正な顔立ち、俺に似ていない綺麗な顔。
「許してなんて思ってない………だが、私を許してくれ。」
そして、
朱色に染まりきった…………
**********
また、あの夢を見た。
憎むべき兄貴。俺から全てを奪った兄貴の唯一優しい時は夢の中。
なんなんだ…………
おばあ様が亡くなってからはこの夢ばかり見る。
何故……………?
“スパァァアッンッ”
「起きろよ、いい加減。クソ餓鬼」
俺の後頭部に同居人の、愛?鉄拳が贈られた。
「いってぇぁぁえっ!何しやがるんだよっ荒垣聖羅っ」
同居人、荒垣聖羅。
とんでもねぇ優しい美男子を想像させる名前………。
うん、それは認めるが「荒」というところだけ。
荒垣聖羅は俺のつい最近、死んじゃったおばあ様の遺言で訳も分からず同居人にになっている奴。
でも、すっげぇムカつくんだ。
「朱桜慧弥、餓鬼クサイのもいい加減止めてくれないか?いくら僕が美しいからと言ってそのような気のひき方はよくない。というか貴様なんかに僕は興味なしだが。」
ほら、始まった。毎朝、コイツと住むようになってから恒例の名物ナルシー談。
「俺だって、荒垣聖羅みたいのはお断りだっ」
「お前にいつ、選択権が存在するようになったんだ?まぁ、こっちから願い下げだがな!」
ニヤリと荒垣聖羅はほくそえんだ。
確かに、聖羅は文字通り美しい黒髪の持ち主で男らしい。程よく引き締まった体なんか
…………って何で!
聖羅なんかっ!
「まぁ、美貌は僕には負けるが貴様の脚のラインなんか結構いいがな。」
「ばっ……………」
「何か僕のことを褒めてくれたから褒め返しただけだが?まぁ、いわゆる御世辞というモノだな。」
「テッメェ……………!!」
聖羅は読心術を使うことができるらしい。
ウザイったらありゃしない。
僕は殴りかかろうとした。
「あー顔は止めてくれるかな?朱桜慧弥クン。荒垣聖羅親衛隊に殺られちゃうよ?あっ、貴様ならヤられちゃうの間違いか」
「クソッ…………」
過去二回ほど俺が襲われそうになったことがあるのを知ってるから。
そして忌まわしいことに二回共に、聖羅に助けられた。
「おっと、いけないなぁ。もうこんな時間。朝食食べに行くぞ、慧弥クン。」
ふざけた口調で俺の金色の頭を撫で、寮から出た。
必ず、口喧嘩の後はこうだ。
頭を撫で、終了。
二人の暗黙の了解、のようだった。
寮の部屋から少し出たらあっと言う間に人に囲まれた。
「キャー!聖羅様」とか、
「聖羅!俺と付き合ってくれ」とか、
「俺とヤろう慧弥!」(怒)とか
聞こえた。
どうしてこんなに俺達が騒がれるかは、
俺がこの学園長だったおばあ様の孫で、朱桜一族の正統な跡継ぎだから。
この学園は只の男子校ではない。
“ウ"ァンパイア”の為の
学園。
そして、ウ"ァンパイアの一番の権力者の集合体の“セイシャル”の一族の集まりの一つで、一目置かれているのが、
“朱桜一族”
見たものは瞬時にこの世のモノでないと悟る。同種でもたまに気を失う者もいるが人間が見たら美しいという感情が欠落する。
花を見ても、絵を見ても、美しい男女を見てもその感情が沸き上がる事は二度とない。
普通のウ"ァンパイアならまだしも、朱桜一族とまでなると感情の欠落どころか全ての感情が欠落してしまうこともある。
普段はウ"ァンパイアの様々な能力の一つで美しさを抑制し、地上で人間達に混ざり生活をする。
しかし、俺は“朱桜一族”なのに、そういう類いの一切の能力を失った。
思いも出したくない、あの15の夏に、実の兄によって奪われた。
だから、一人では何も出来ない。人間達に混ざり、地上で生活することも出来ない。
癪だが、荒垣聖羅 の助けが必要なのだ。
俺が朱桜家の当主として、任務をこなす為には。
全ての力を失ったとしても、この俺が当主であることには変わりない。
朱桜家当主を支えるのはいつの時代でも荒垣家と決まっていた。
あらゆる面で当主をサポートする、護衛のようなマネージャーのような。
朱桜家にとってはなくてはならない存在の荒垣家____
今の俺の状態では当主としての役割は不十分。
聖羅のサポートなしでは、すぐに兄貴率いる、悪魔的秘密組織“アサシン”にウ"ァンパイア達は危険にさらされるだろう………………。
**********
「何、切なげな表情浮かべてるんだよ。まぁ、そんな顔しても僕には勝てないがなっ!」
「べっ………別に」
珍しく反撃しない俺にちょっと狼狽えた聖羅だった。ザマァミロ。俺だってセンチメンタルな気持ちになるんだ!聖羅のように神経が図太くないのだから。
「今、失礼なこと考えただろう!慧弥の癖にな!」
立場的には下なのにな!
いっつも上から目線の聖羅。
「早く飯行こうぜ」
素っ気なく答えた。朝から何となく、嫌な予感がするのだ。しかし、聖羅にはそんなことを言いたくなかった。
朱桜家の特別寮から食堂は遠いのだ。