短編小説

□光の行方
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「おい、おっさん。 無事か?」

そんなレイブンの後ろから目の前を走り去る漆黒。

それはとても身に染みている声。

若干楽しそうに横をすり抜けていった声は、ほんの少し心配が混ざったもの。

それはレイヴン一人に後ろを任せていたという、ユーリの思いからきていた。

それを、ユーリの声から感じ取ったレイヴン。

「一人で戦うのは年寄りには酷ってモンよ、青年。」

と、軽口を返した。


軽口の中に、大丈夫という言葉を含ませて。

「そんだけ言えんなら大丈夫だな。」

言葉にこめられた意味を、正しく理解したユーリ。

レイヴンは一人頷くと、魔術の詠唱に入る。

一人で戦っていては、詠唱中に無防備になってしまう魔術は使えない。

二人なら、それは別だ。

それも、相手がレイヴンが絶対の信頼を置いているユーリなら。

ユーリが前に出て剣を振るえば、魔物の意識はそこに集まる。

その隙を見計らって、レイヴンは術を発動させさせた。

もちろん、ユーリは魔物から距離を置いている。

風が魔物を襲い、それが最後だった。

見れば、カロル達の方も戦闘が終わっている。

二人は軽くお互いを見る。

カロル達と合流する為に足を進めようとした。

その時。

「二人とも、危ない!!」

同時だった。

微かな気配が二人の後ろから現れたのは。

倒した魔物達の後ろから、怪我を負った魔物が飛び出して来たのだ。

魔物は一番近くにいるレイヴンに向かって来る。

すべて倒したと思っていたレイヴンは、気を抜いている為反応が遅れてしまった。

カロル達が慌てて走り出したが、間に合わない。

“ヤバい!”

そう思ったレイヴンの目の前に、見慣れた黒が広がった。

「大丈夫か、おっさん?」

そこにいたのは、先ほども聞いた声の主。

ユーリだった。

「う、うん。
大丈夫よ、青年。」

レイヴンはそんなユーリの背中を見ながら答える。

でも、レイヴンはユーリからしてくるある臭いかが気になった。

それは長年自分が嗅いできた、血の臭い。

よく見ればユーリはの右腕から、数本の赤い筋。

「せ、い……。」

「二人とも、大丈夫?!」

「ユーリ、腕かして下さい!」

レイヴンは何か言おうした。

しかし、やや離れていた他の仲間達が駆け付け、自分達に声をかけてきた。

その為、レイヴンの言葉はユーリには届かなくて。

ユーリはエステルにいわれた通り、腕を差し出す。

レイヴンは何も言わすにユーリを、いや、ユーリが負った傷跡をじっと見ていた。




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