◆story◆
□【テスト最終日によくあるアレコレ】
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テスト最終日──今日から部活が再開、という日の部室が騒然とするのは、中学も高校も同じことらしい。
「よっしゃー、テスト地獄しゅーりょー!!やっと野球ができるっ」
そう声を張り上げ両手を天に向けて体を伸ばすのは田島だ。
彼は、こと野球に関すれば並外れた才能を発揮するのに、勉強面では周囲をひやひやさせるほどの珍回答を連発する問題児。
西広も、部員総出で行われたテスト勉強会で彼には随分と手を焼いた。
「それはいいとして、お前テスト大丈夫なんだろうな。」
練習着に袖を通しながら花井が念を押すような口調で田島に問いただした。
自分以上に田島の勉強を見てやった彼には、それだけのことを言っていい権利があると西広も思う。
が、三橋なら一発で胃痛を引き起こしそうなほどプレッシャーが込められていたその一言も、田島にかかれば簡単に相殺されてしまう。
「何がー?」
彼は実に飄々とした口振りで花井に訊き返したのだった。
「だから、テストだよっ、ちゃんと出来たのか?」
「あぁ!そういえば現社のテスト中、気づいたら寝てたみてぇで、その夢に花井が出てきたんだよ〜」
「……それで…?」
「え?別に、ただ二人でトランプとかして〜…」
「チガ────ウ!!!!テストの続きはどうしたんだッ!!」
「んー、…ありゃ?どうしたんだっけかなー」
「ふざけんなよオマエー…」
うなだれる花井の背中は、そのすぐ横であっけらかんとする田島とのコントラストで余計にどんよりとした空気を醸している。
西広は花井を不憫に思いつつも、口を挟むでもなく、黙って練習着に着替えようと手を動かした。
一方ベンチのほうからは、
「栄口ぃ、どーしよ俺、現国やべぇかも…うわー!!考えれば考えるほどヤベェよ!!
ヤバすぎる!!アイツぜってぇ鬼だー!!」
「と、とにかく落ち着けって。俺今日問題用紙持ってるし、とりあえず後で一緒
に答え合わせしようぜ?な?」
と頭を抱える水谷を、甲斐甲斐しく栄口が慰めてやるというやりとりが聞こえてきて、あぁ、うちの部は上手い具合にしっかり者とうっかり者が混在しているんだな、と西広はひそかに苦笑を漏らした。
そんな中ふと視線を一番隅のロッカーへ移すと、そわそわと落ち着きない素振りの三橋と目が合う。
もしかして、テストが思っていたよりも出来なかったのだろうか。
脳裏をそんな考えが過(よ)ぎるが、けれど何も訊かないのも良くない気がして、西広は何気なさを装って三橋に声をかけた。