◆story◆

□【sweetest crime 中】
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【sweetest crime 中】
〜無自覚犯罪者心理〜


(わっかんねぇ。)

阿部の脳裏をめぐる、たくさんの思考はすべてその一言で尽きた。
わからない。
理解ができない。

(俺なんかしたか?!)

さっきからまったく同じ台詞で自問するが

(わかんねぇ…)

やはり、同じところに行きつくのだった。
今朝、三橋が朝練を休んだ。
というより、朝練が始まる前からグラウンドに居たのに、突然走り去ってそれから返ってこなかったのだ。
インフルエンザにかかっても投げたいと言いそうな奴だ。
おまけに、一日でも練習を休めばポジションを降ろされるとでも思い込みそうなほどの心配性。
…ちょっとやそっとじゃ練習を休まないだろう。
阿部は三橋との会話を思い起こしていた。

(あいつ、何で泣いたんだろ)

窓の外を見ながら、三橋のことばかりが自分のなかをめぐっていく。
水色一面のなかにそびえる入道雲と絶えず響く蝉の鳴き声に、今日も暑くなるなと思いながら三橋のピッチングを心のどこかに描いたりして。

(うわー、こういうの柄じゃねぇな、俺。)

かすかに苦笑して、また雲を見つめる。
遠くのほうで教師の声がかすかに聞こえていた。


***


その日の放課後、阿部と三橋の関係が微妙に変化した。
三橋がさりげなく阿部と距離を置きだしたのだ。
本当にわずかな変化だが、阿部にはそれが痛いほど分かってしまっていた。
野球部員のなかでどれだけの人間がそれに気づいただろうか。
まず、花井は確実に気づいていなかった。
何しろ今こうやって、部室の鍵閉めを阿部と三橋に頼み、部室に二人きりにしたのだから。


 
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