30000hit&40000hit

□悪いのは君
1ページ/1ページ

「〜〜〜っ野田なんか大っ嫌いだ!」

そう言い捨てて、音無は勢いよく校長室を出て行った。
するとすぐに入れ替わりに日向が校長室に入ってきた。

「今音無がものすごい勢いで走ってったけど、何かあったのか?」
「貴様には関係のないことだ」

ふん、と鼻を鳴らしながら野田は日向の問いに素っ気なく返す。
日向はそーかよと言って野田の斜め向かいのソファーに座る。
さっきまでは、校長室には音無と野田の二人だけだったため、音無が出て行った現在校長室には野田と日向の二人だけという珍しい状態だった。
その為か、校長室は静寂に包まれていた。
その状態がどれ程続いただろうか、徐に日向が口を開いた。

「音無のことだけどさ」
「…何だ」
「さっきすれ違った時、泣いてたぜ」
「…ふん、それがどうした」
「おいおい、そりゃねーんじゃねーの?つか何で音無はこんな奴を好きになっちまったのかねー」

野田のあまりの返答に日向は皮肉交じりに言って首を左右に振る。
その日向の仕草と言葉にカチンときた野田だったが、ただ日向を鋭い眼差しで見遣るだけだった。

「あんまそんな態度ばっか取ってると嫌われるぞ?ま、俺にはそっちのが好都合だけど」
「何…?どういう意味だ、貴様」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味だよ。俺、アイツの事諦めてねぇから」

日向は野田に負けず劣らず鋭い眼光を野田に向ける。
野田は眉間の皺を深くして、僅かに日向から目を背ける。

「あ、言っとくけど、俺だけじゃねぇから」
「は…?」
「藤巻とか大山とか、俺以外にも音無狙ってる奴なんて結構いるぞ?」

日向の言葉に、野田は眼を見開く。

(確かに音無は男女問わず好かれている。そんな中―自分で言うのもなんだが―音無と付き合う事になったのは奇跡だと思った。これでアイツ等も諦めるだろうと思っていたが、甘かった…っ)

ちっ、と短く舌打ちをして野田は日向に目もくれず校長室を出て行った。

「あーぁ、余計なこと言っちまったかねぇ」

野田の背中を見送った日向はソファーに深く腰掛け自嘲する。

「全くだ」
「…何だ、居たのかよ藤巻」

野田と入れ替わりに藤巻が入ってきた。

「つか盗み聞きかよ」
「聞こえたんだよ。にしても余計な事を」
「仕方ねぇだろ……アイツの泣き顔、見たくねぇんだよ」
「んなもん、皆同じだ。俺もな」
「だよなぁ…悔しいが、アイツ泣き止ませられんのも笑顔に戻せんのもあの野郎だけだよな…」
「あぁ」

はぁ、と二人同時に溜め息を吐き、ゆり達が校長室に入ってくるまで、二人はそこから一言も言葉を発さなかった。

………………………………

校長室を飛び出した音無は山に来ていた。特に何か目的があったわけではなく、ただ我武者羅に走っていたらここまで来てしまったのだった。しかし、山に入った事のなかった音無は、道に迷っていた。
キョロキョロと辺りを見回していた音無の耳に、微かに声が聞こえてきた。
声の聞こえる方へ歩いて行くと、人影が見えた。

「松下五段…?」
「ん?音無か?」

そこに居たのは松下だった。柔道着を着ているところから見て、どうやら修行中のようだった。

「どうしたんだ?こんなところに」
「えーと、ちょっと道に迷っちまって」
「そうか…ん?目が腫れているな。何かあったのか?」
「ぇ…あ、いや何でもな――」

何でもないと言おうとした音無の目から涙が零れ落ちた。

「あ、あれ…」

音無は必死に涙を止めようとする。松下は音無に近づいて頭をポンポンと撫でる。

「俺でよければ相談にのるぞ」
「ぁ、りがと」

………………………………

「そうか、そんな事が」
「五段も酷いと思うだろ!?」

さっきまで泣いていた音無だが、話している内に怒りがこみ上げてきたのか、今では興奮気味に松下に詰め寄っていた。

「そうだな。しかし、お前は本当に野田の事が嫌いになったのか?」
「え?…どうだろ、何かわかんなくなった。でも、俺は好きでもアイツは…」
「…試してみるか」

松下は隣に座っていた音無の顎に手をかけ軽く持ち上げて少しずつ顔を近づけていく。
ぇ、と思考停止してしまい動けなくなった音無まであと数センチのところまで近づいた時、松下の首に何かが突きつけられた。

「貴様、何をしている」

地を這うような低い声を発したのは、さっき音無と喧嘩し、今現在松下にハルバードを突きつけている野田だった。
松下はすんなり音無から離れて手を離す。

「の――っ!」
「来い」

音無が野田の名前を呼ぼうとした時、野田は一言そう言うと、音無の腕を取り歩き出した。野田は松下に特に何も言わなかったが、松下は野田が踵を返す時に己を睨んでいたのに気づいていた。

……………………………

「ちょっ、ま、野田!」

ずんずんと歩いて行く野田に必死について行っていた音無が野田に待ったをかける。
ようやく止まった野田は音無の手首を掴んだまま低い声で尋ねる。

「何をしていた」
「別に何もしてねぇよ」

野田はぶっきら棒に答える音無を木の幹へとダン、と叩きつける。
背中を強かに打った音無は一瞬息を詰まらせるが、野田は気にすることなく音無の顔の横に手をつく。

「貴様は、俺のものだ」
「は…?」
「貴様はもう俺のものなのだ」
「の、だ…?」
「だから、頼むから、他の奴を見るな、俺だけを見ていろ」

真剣な野田の眼差しに呑まれそうになった音無だが、ふと喧嘩の原因を思い出す。

「元はと言えばお前が悪いんだろ。ゆりの事ばっか言うから」
「ぅ…それは悪かった!謝る、謝るから、な?」
「…わかった。でも、次は許さねぇからな」
「あぁ……結弦」
「なっ///―――んっ」

野田は下の名前で呼ばれ赤くなった音無にキスをする。それは軽く触れるだけものから段々と深くなっていった。


悪いのは君


(野田、汗臭い)
(貴様を探し回っていた所為だ)
(俺の所為かよ)
(帰ったら風呂に入るぞ)
(お好きにどーぞ)
(何を言ってる貴様も一緒に入るのだ)
(ぇ)


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ