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□自動喧嘩人形(喧嘩嫌い)
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”平和島静雄”
彼は俗に、自動喧嘩人形と呼ばれている。
それは、彼が一度キレれば誰にも手がつけられず、破壊の限りをし尽くす故に付けられたものだった。
そしてそんな彼は今日も、ここ池袋で暴れていた。


「ぅおらあぁぁぁ!!!」

そんな静雄の咆哮と共に、白い鉄の棒―道路標識は、目の前の男達めがけて振り回され、ある者は直撃し、またある者は寸でのところで運良くかわせていた。
ところで、何故こんなことになっているのか。事の発端はなんだったのか。その答えは至極簡単、単純明快。
男達が、静雄と肩が仲間の一人とぶつかった事にケチをつけたのだ。よくある脅し文句で、相手が静雄と気づかずに。
そして、一応詫びを入れた静雄はその事にキレた。
男達の哀れで、可哀想なところは、ケチをつけてから、つけた相手が静雄だと気づいたことだろう。
ぶつかった男が気づき、顔を青くした瞬間、その男は静雄に殴られ宙を舞っていた。その間数秒とかからず。
周りにいた仲間の男達は、そこで立ち去ればいいものの、何を思ったのか、男達は静雄に向って行った。
その結果が、今のこの状況だ。
それなりの数がいたはずなのに、そのほとんどが地に伏していた。
残っている男達は、どうにかして逃げようと、逃げる算段をするも、周りは野次馬に囲まれていて、そこを抜ける前に捕まってしまうだろう。
どうするか、と考えていた矢先、静雄が傍らにあった自動販売機を持ち上げた。
あれが当たれば、ひとたまりもない。
血の気が引いていくのが感じられ、嫌な汗が背を伝う。と、その時、周りを囲んでいた野次馬の中から、一人の少年が飛び出してきた。

「静雄さん、ストップ!」

そう叫びながら、少年は静雄の腰に抱きついた。
無謀だ、あの自動喧嘩人形を止めようなどと、無謀にも程がある。投げ飛ばされるなり、何なりされるのがオチだと。誰もが思った、男達でさえも。
しかし、そんな予想を反して、静雄は自動販売機を持ち上げたまま、ぴたりと動きを止めた。

「帝人、危ないだろ、離れろ」
「嫌です」
「……」
「とりあえず、それ降ろしませんか?」

帝人に上目づかいに見られ、静雄はサングラスに隠れた目尻を僅かに赤らめながら、自動販売機を降ろし、はぁ、と息を吐く。

「落ち着きましたか?」
「…あぁ」

静雄は先程まで昇っていた頭の血がすっと引いていくのを感じていた。

「あの、静雄さん、お仕事は…」
「もう終わった」
「じゃあ、良ければ一緒に夕食でも食べませんか?」
「食う」

静雄が即答すると、帝人は満面の笑みを浮かべ、静雄から離れ、手をとる。

「行きましょう、静雄さん。今日はカレーを作る予定なんです」
「そうか。帝人の料理は何でも美味いから楽しみだな」
「ありがとうございます///」

静雄と帝人は手を繋ぎながら、まるで先程の騒動などなかったかのように、その場から和やかに去って行った。
一方、残された野次馬や静雄にやられなかった男達は、誰もがその光景を疑い、しばらくその場から動けなかった。
その日から、池袋では、自動喧嘩人形のストッパーがいる、というような噂が流れ始めた。


自動喧嘩人形(喧嘩嫌い)


(どうですか?静雄さん。お口に合いますか?)
(あぁ、美味いぞ、帝人)
(よかった!たくさんありますから、遠慮せず食べてくださいね)
(あぁ。……帝人)

ぺロ

(〜っ///!?)
(カレー、付いてたぞ)
(あ、りがとう、ござい…ます///)


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