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□今も昔も変わらない
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「はい、サトシ」
「ん、ありがとシゲル」

コトリ、と僕はマグカップをサトシの傍に置いた。

「何を見ているんだい?」
「これ?アルバム」
「アルバム?」

僕はひょいとサトシの手元を覗き込むと、そこには確かに何枚かの写真が綺麗に並べられた本―アルバムがあった。

「どうしたんだい、これ」
「昨日部屋掃除してたらさ、見つけたんだ」

懐かしいだろ?と首を傾げて笑うサトシは、アルバムの写真に写っている子供の頃の笑顔と変わりなかった。

「うわー、どれも懐かしいなー」
「そういえば、サトシは昔苛められっ子だったね」

僕のその言葉に、サトシはう…と言葉を詰まらせた。
嫌な事思い出させるなよ、と拗ねたような顔をしたサトシに僕は軽く謝りながらサトシの頭を撫でた。

「何で苛められたのか未だによくわかんないし…」
「嫉妬だよ」
「へ…?」
「皆は君に、嫉妬してたんだよ」

サトシは嫉妬…と小さく呟き考える素振りをした。でも、どうやらあまりピンとこないようだった。
その様子に僕はふっと笑い、わからなくてもいいよ、もう関係のないことだ、と言った。

でもサトシは納得できないのか眉間に皺を寄せた。
痕になるよ、と僕はサトシの眉間の皺を指を解しながら子供の頃に思いを馳せた。



今から10年程前の、僕とサトシが5歳の頃の話だ。
マサラタウンは自然豊かな田舎町で、子供の数も少なかった。だから、この町の子供は皆一緒に遊んでいた。
ただ、僕とサトシは違った。
僕はオーキド博士の孫だから、と遠巻きにされた。まぁ僕は別にそんな事は気にも留めなかったが。
そしてサトシはポケモンを持っている、という理由だった。
正式に自分のポケモンを持つことが許されるのは10歳からと決まっている。にもかかわらずポケモンを持っていたサトシは苛めの対象になった。
しかし勘違いしないでほしいのは、サトシは決して自分のポケモンを持っていたわけではない、ということだ。
サトシはポケモンに懐かれやすい、ただそれだけだった。
でも子供からすれば、そのことは羨望ではなく嫉妬や僻みになり苛めへと発展し、サトシは孤立した。
だから自然、僕とサトシはよく二人でつるむようになった。
僕はその事に不満はなく満足していたし、サトシも(少し寂しそうではあったけれど)満足していたように思えた。
そんな毎日を過ごしていたある日、問題が起こった。

………………………………

『サトシが帰ってこない…ですか?』
『そうなのよ、いつもこの時間には必ず帰ってきてるのに…』
『…ぼく、探してきます』
『えっ、シゲルくん!?待って―――』

ぼくはサトシのママさんの制止の声を振り切って走り出した。
サトシがいる場所は大体わかっている、裏山だ。いじめられた時は毎回そこに行く。
ただ1つ問題なのはサトシが方向音痴ということだけど…きっとこれも大丈夫だろう。
だって彼は、サトシは愛されているから。


目的の場所、裏山の中心にある大きな木を目指して走っていると、ポツリと雫が頬を打った。まずい…急がないと、と僕は走るスピードを上げた。


『サトシ!』

目的の場所に着くと、サトシは木の幹の大き目の隙間にポケモン達と一緒に入っていた。

『よかった、ここで合ってて』
『シゲル…』
『帰ろう、サトシ。ママさんも心配してるし雨も降ってきた』
『でも…おれ…』

なかなかぼくの手を取ろうとしないサトシ。
周りのポケモン達も心配気な調子で鳴いている。

『またあいつらに何か言われたんだろう?』
『…うん』
『何度も言うけど、あいつらの言う事なんか気にすることはないよサトシ』
『でも…っ』
『きみにはぼくがいるだろう?それにポケモン達にママさんにおじいさまも。それだけじゃ嫌?』
『っそんなことない!』
『なら、帰ろう?』
『…うん』

サトシはやっとぼくの手を取り立ち上がった。するとサトシの周りにいたポケモン達はバラバラに散って行った。
でも、かすかに気配があるからどこかでぼく達を見てるんだろう。
それからぼくとサトシは急いで山を降りた。
雨も強くなり、土のぬかるみに足を取られそうになりながらも。
山のふもとまで行くと、ポケモン達の気配が散った。山に戻ったのだろう。
そしてぼく達はサトシの家に帰り、帰りを待っていたママさんに迎えられた―――。

………………………………

(あの後、普段は優しいママさんが泣きながら怒ったりで大変だったな…)

「シゲル…?どうしたんだ?」

いきなりクスクス笑い出した僕を不審に思ったのか、サトシが首を傾げて尋ねてきた。

「何でもないよ。ただ、昔の事を思い出してね」
「昔の?どんな?」
「内緒」
「はぁ?何だそれ、いいだろ教えてくれても」
「また今度ね。それより、今日の夕飯はどうしようか」

また今度、と言うと不満顔になったサトシだが、ご飯という言葉を聞いて直ぐに笑顔になった。

「今日はさ、ママが一緒に食べようって!」
「ママさんが?わかった。じゃあそろそろ時間もあれだし行こうか」
「おう!」

ママのご飯久しぶりだなー、と楽しみにしているサトシを見ると本当に昔から変わらないな、と改めて思う。
いつまでも変わらない純粋な君だからこそ、ポケモンにも人にも愛されるんだろうね。
それはとても良いことだけど…正直僕は複雑だよ、サートシ君。

「シゲルー?」
「すぐ行くよ」

僕はサトシの声に答えながら出かける準備をした。この先ずっと、サトシと居れることを願いながら―――。


今も昔も変わらない


(サトシ、はい)
(ん?手?)
(うん、手、繋ごう?)
(えっ、や、でも、まだ人が…///)
(嫌?)
(う〜…嫌じゃ…ない///)
(じゃあ、行こうか)
(うん)


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