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□夕日の射す教室で
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スタスタと辺りを見回しながら廊下を歩く。
廊下には人っ子ひとりいなく、また、窓からふと見下ろした、真っ赤に染まった運動場にも運動部の片づけをしている部員がちらほらと見えるだけだった。
それもそうだろう、今はもう六時前。
日が暮れるのも早くなってきたこの時期、この時間帯にはほとんどの生徒は下校済みだ。
もう校舎内には誰もいないだろうと思っていると、近くの教室から微かな物音がした。
(まだ誰か残っているのか…?)
音のした教室の前に立つと、確かに中には人の気配があった。
ガラリと音をたてて扉を開けると、一番奥の席に一人の生徒が座っていた。
逆光になっていたため顔はわからなかったが、そのシルエット、雰囲気だけで僕には誰だかわかった。
「サトシ」
集中していたのか、名前を呼ぶことでやっとこちらに気付いたサトシはシゲル!、と僕の名前を呼んだ。
「まだ残っていたのかい?」
「日直の仕事がまだ残ってるからな」
どうやら先程から集中していたものは日誌だったみたいだ。
「いつも適当に書いてるサートシ君にしては珍しく真面目だね」
「む…別にいいだろ」
むすりとした顔でサトシは下からこちらを睨みつけてきたが、まったくもって迫力はなかった。
「それにもう書き終わった」
最後に自分の名前を書いてペンを直したサトシはガタリと椅子を引いて立ち上がった。
「なら、一緒に帰ろうか」
「黒板消したらな」
「手伝ってあげよう」
「…どーも」
僕とサトシは黒板消しを手に取り、それぞれ両端から消していった。
「う…わぁ!」
サトシがいきなり大声を出したと思ったら、足元にあった物に躓いたのかバランスを崩し、体制を立て直そうとして黒板消しを落としたみたいで少々粉まみれになっていた。
「まったく何をやってるんだいサートシ君」
僕は黒板消しを置いてサトシに手を差し伸べた。
サトシは小さくありがと、と言うと僕の手を取り立ち上がった。
「ぷっ……くく」
「?シゲル?」
突然笑い出した僕を不思議に思ったのか、サトシは首を傾げながら僕の名前を呼んだ。
僕は手を伸ばしサトシの頬に触れた。
「付いてるよ、チョークの粉が」
「へ…あっ///」
赤くなったサトシはばっ、と僕の手を払い自分の袖で頬を拭った。
「おっちょこちょいだなぁサートシ君は」
「わ、笑うなっ///」
サトシはむ、と頬を膨らました、と思ったらニヤリと笑った。
僕は何か嫌な感じがしてサトシの名前を呼ぼうとした瞬間、サトシは手を伸ばしてきて僕の頬に触れた。
「へへっこれでお前も俺と同じだぜ」
にっ、と笑ったサトシ。
僕はまさかと思い先程サトシが触れたところに触れてみると、指先に白い粉が付いた。
「やってくれたね、サートシ君」
今度は僕がニヤリとする番だった。
僕はばっ、と手を伸ばしてサトシの頭を乱雑に撫でた。
「うわっ、おい、止めろよっ」
サトシは僕の手から逃れると、僕の頭めがけて手を伸ばしてきた。
僕はそれを軽々と避けた。
サトシは避けんなっ、ともう一度手を伸ばしてきた。
今度のそれも避けるとサトシはむ、と頬を膨らませた、がすぐに噴きだし笑いだした。
「サトシ?」
「や、何か懐かしいなーと思って」
「何がだい?」
「こーゆーじゃれあい?みたいなの。子供のころはよくやってたよなー」
「今も十分子供だろ?」
「まーな!」
二コリと笑ったサトシの顔は夕日に照らされてとても綺麗で、昔と変わらないサトシの笑顔につられ、僕も自然に笑った。
夕日の射す教室で
(ねぇサトシ)
(ん?何だ?)
(キスして良いかい?)
(ばっ///な、何言って―――んぅ!…は、ぁ……んぁ…)
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