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□壊れた街灯
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静雄は、はぁはぁと肩で息をしながら、足が縺れるのも厭わずに辺りを見回しながら走り続ける。

「兄さん!」

聞き覚えのある声がし、立ち止った静雄に黒髪の端正な顔の蒼年が近づく。

「はぁっ…幽、か!どうだっ帝人はいたか!?」
「こっちにはいないみたい。その様子だと、兄さんの方もいなかったみたいだね…」
「あぁ…」

静雄はがくりと肩を落とすと、息を整えるように深呼吸をする。
現在、平和島の末の子である帝人が迷子になっていた。

「くそっ!俺のせいだ…!」
「落ち着いて、兄さん」
「これが落ち着いてられるかよ!俺が、俺が目を離したせいで帝人はいなくなったんだぞ!」
「兄さんだけのせいじゃないよ。俺にも非はある」
「何でお前はそんなに落ちついてるんだ!帝人が心配じゃねぇのか!」
「……それ、本気で言ってる?」
「…っ…」

直情的な静雄と反対の、幽の静かな怒りに静雄は息をのむ。

「…とにかく、もう一度よく探そう。俺はあっちに行くから、兄さんはそっちを探して。じゃ、何かあったら携帯で」
「あぁ!」

静雄と幽は逆の方向に走り出す。
空はもう黄昏時で、道に等間隔で並んでいる街灯が明かりをつけ始めていた。
静雄は裏路地の方に入り、人気のない方へと向かって行く。
広いところに出ると、静雄は一旦立ち止まっり、辺りをキョロキョロと見回す。

「くそっ!」

なかなか見つからない事に静雄は悪態をつく。
チカチカと明かりの切れかけた壊れた街灯が、嫌な予感を湧きたて、静雄を更に焦らせる。

(帝人、帝人、帝人!何処にいるんだ…!)

静雄は元来た道を戻ろうと踵を返すと、視界の端に見覚えのある姿を捉えた。

「帝人!」

静雄はそちらの方へ全速力で向かう。

「あ!しずにぃ!」

それに気付いた帝人は満面の笑みで静雄の方へ向かって行く。
静雄は最大限、力を加減して帝人を抱きあげる。

「何処行ってたんだ!心配したんだぞ!勝手にいなくなったらダメだろ!」
「う…ぁ…ごめっんなさ…っ」

ぼろぼろと涙をこぼす帝人に、静雄は自分がかなり怒鳴っていたのに気づく。

「あ…悪い帝人…!怒鳴って悪かった…」
「う…くっ…しずにぃ…」
「お前が、お前が悪いんじゃない…俺がちゃんと見てれば…」
「しずにぃ、ごめんね…」
「いや、悪いのは俺だ。ごめんな、怖かったろ」
「しずにぃ…」

静雄は帝人の頭を撫で、ズボンのポケットから携帯を取り出すと、幽に電話をかける。
短いコール音のあと、電話がつながる。

『もしもし、兄さん?』
「幽か?今何処だ?」
『さっき別れたところ。…その様子だと、帝人は見つかったみたいだね』
「あぁ。今から帝人連れてそっちに行く」
『わかった、待ってる』

静雄は電話を切ると、携帯を仕舞い、帝人を抱きあげたまま元来た道を戻る。
しばらく歩いて裏路地を抜けると、幽の姿が見えてきた。

「かすかにぃ!」

幽を見た帝人は、静雄に抱きあげられたまま幽に手を振る。
声を掛けられた幽は(傍目からは分からないが)顔を綻ばせ二人に近づく。

「良かった、帝人、無事で」
「かすかにぃもごめんね…?」
「謝らなくてもいいんだよ。無事ならそれでいい」

幽が帝人の頭を撫でると、帝人は嬉しそうに笑う。

「さ、帰るぞ。母さん達も心配してる」
「うん!……あ」
「どうしたの?」
「あのね、手、繋ぎたい!」
「わかった」

静雄は帝人を下に降ろすと、手を差し出す。
幽も帝人に手を差し出すと、帝人は嬉しそうに二人の手を握る。

「うし、帰るか!」
「うん!」
「うん」


壊れた街灯


(そういや帝人、何であんなとこにいたんだ?)
(えっとね、黒い服のお兄ちゃんにね、楽しいところに連れてってあげるよって言われたの)
(黒い服のお兄ちゃん…?)
(うん。でもね、急に焦ってどっか行っちゃったの)
(その人ってもしかして……ねぇ、帝人、名前は聞いた?)
(うん!確か”いざや”って言ってたよ)
((あいつ……ぜってぇ殺す!!))
(兄さん、落ち着きなよ)
(?)


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