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□もみじの手の平、りんごほっぺ(柔らかい)
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珍しく仕事が早く終わった平和島静雄は、特に何をするでもなく、池袋の街を歩いていた。

(あー暇だ…急にこう、時間ができても困るもんだな…)

煙草を燻らせながら、静雄はゆっくりと歩を進める。

(幽…は多分仕事だろうし……新羅んとこにでも行くか)

そう決断した静雄は、ポケットから携帯電話を取り出しいつくかボタンを押し新羅に電話を掛ける。

『もしもし』
「新羅か?俺だ」
『静雄?どうしたの』
「今から家行っていいか?」
『あー、ごめん静雄。今それどころじゃないんだ』
「忙しいのか?」
『うん、そうなんだ、ごめんね。じゃ』
「あ、おい―――切りやがった」

静雄が何か言う前に新羅によって電話が切られた。
静雄は軽く舌打ちすると、新羅のマンションへ向かっていた足を止め、踵を返した瞬間、足元に何かがぶつかった。

「あ?」

下を向くと、三つか四つくらいの子供が尻餅をついていた。
静雄は慌てて起こそうとして、子供に触れようと手を伸ばしたが、自分が触れれば壊してしまうのでは、という考えが頭に浮かび、触れる直前に止めた。
子供はそんな静雄を不思議そうな眼で見ると、直前で止められた静雄の手に触れた。

「っ!」
「どうしたの?」
「い、いや…なん、でもねぇ」

急に触れられたことに驚きながらも、静雄は何とか言葉を返す。

「ごめんなさい…ぶつかっちゃって」
「え、あ、いや。俺も悪かったな。怪我してねぇか?」
「うん!」

にっこりと満面の笑顔で答える子供に、静雄は自分でも知らず知らずの内に、子供の頬に触れていた。

(柔らけぇ…)
「おにいちゃん?」
「っ悪ィ!」

静雄は慌てて手を離すと、子供が未だに尻餅をついたままであることに気付いた。

「あー…立てるか?」
「うん、だいじょうぶ!」

子供は地面に手をつきながら立ち上がる。

「ホント、悪かったな。…そういやお前、一人でいるってことは迷子か?」
「ううん、ちがうよ、おさんぽ!」

終始笑顔で答える子供の様子に、静雄は子供が迷子でないことは理解できたが、周りに子供の親がいないことが、ひっかかった。

「父ちゃんと母ちゃんはどうした?」
「うーんとねぇ、おかあさんはおしごとで、おとうさんはおうちでおひるねしてる!」

傍から聞けば、まるでダメ亭主と働き者の妻の構図が浮かび上がる。

「…あー、とりあえず、家に帰った方がいいぞ」
「えーまだおさんぽしたい…」
「ダメだ。危ねぇ目にあったらどうすんだ。親が泣くぞ」
「うー…わかったぁ」

静雄は心底残念そうな顔をしながらも了解した子供に、苦笑を洩らす。

「送ってやるよ」
「ホントに!?」
「あぁ」

静雄の言葉に子供は急に笑顔になる。
それを見た静雄はほわり、と心が温かくなった気がした。

「家、どっちだ?」
「あっち」
「よし、行くか…あ、そういやお前、名前は?」
「みかど!おにいちゃんは?」
「俺は静雄だ。…よし、じゃ行くぞ」
「あ」
「どうした?」
「手、つないでいい?」

子供はすっと静雄に向けて手を伸ばす。

「あー…それは……」
「ダメ?」
「うっ…」

潤んだ瞳で見上げられ、静雄は動揺する。

「ね、ダメ?」
「わかった…ほら」
「ありがとう、しずおにいちゃん!」

静雄が手を出すと、帝人は嬉しそうに静雄の手を握る。
静雄は帝人の手を壊さないように、細心の注意を払う。

(にしても、小っせぇ手だな。よく言うもみじの手のひらってのはこういうのなんだな。…しっかし、こいつ泣かねぇんだな。いや、泣かれても困るが)

静雄はそんな事をつらつら考えながら歩き、帝人は鼻歌を歌いながら機嫌よく歩いていた。
その光景を見た池袋人は、何かの見間違えかと我が目を疑うのだった。


もみじの手の平、りんごほっぺ(柔らかい)


(静雄、今は無理だって……って帝人くん!?)
(…帝人、お前の父ちゃんってこいつか?)
(うん!そうだよ!)
(どうして帝人くんが静雄と一緒に…いや、それより無事でよかった!誘拐されたかと思ったよ。帝人くんは可愛いからね)
(親バカ…)
(何だい、静雄。帝人くんが可愛くないとでも?)
(いや、確かに可愛いと思うが)
(フフン、当たり前だろ?僕とセルティの子供なんだから。あ、静雄にはあげないよ。…っとそうだ、セルティに連絡しなきゃ!)
(…慌ただしい奴だな。苦労するな、あれが親だと)
(?おとうさんもおかあさんもやさしいよ?)
(あー…好きか?父ちゃんと母ちゃん)
(うん!)
(そっか)
(あ、しずおにいちゃんもすきだよ!)
(っ!…ありがとな)
(みっ帝人くんが嫁に行っちゃうぅぅぅ!!)
(うるせぇよ)


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