Present

□ある夜の出来事
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inサウナ。

「じゃ、俺先にでるわ」

と、片手を挙げて出ていこうとする翔。

「あ?何だおめぇ早いじゃねぇか」
「まさか翔、お前千里さんに…」
「そうなの!?」
「おめぇらには関係ねぇだろ」
「冷たいなぁ。THEサウナ勝負した仲じゃないか」
「何だ、THEサウナ勝負って。ださい名前だな」
「お前が命名したんだろ」
「確かに酷いネーミングだよな」
「おめぇの絵よりマシだよ」
「何だと、やんのか、こんにゃろ」
「ボクシングでも柔道でも何でもかかって来いや」
「これだから大人になれない子供は嫌なんだよ」
『『何だと』』

喧嘩再発。
そうこうしている内に一人サウナを出ていく翔。

(予想外に上手いこと出られたし、暫くは大丈夫そうだな。にしても彼奴ら馬鹿だな)

リビングに入ると、そこに千里は見当たらなかった。

(あれ?何処行ったんだ、アイツ。サウナ入る前は此処にいたのに)

千里を捜す為にリビングを出ると、井上さんがいた。

「あ、井上さん。ちさ「千里さんならバルコニーにいますよ」
「へ?」
「千里さんを捜しているのでしょう?」
「え、あぁ、うん。そうなんだけど…」
「何か?」
「いや、別に。ありがとう」
「いえ、それでは」

そう言って井上さんは去って行った。


………………


バルコニーに向かうと、千里がこちらに背を向けて立っているのが見えて、直ぐに話しかけた。

「ちーさと。何してるの?」
「っ!!翔!吃驚した〜…」
「ごめん、ごめん。で、何してたの?」
「星をね、見てたの」
「星?」
「うん、スッゴイ綺麗なの」
「ホントだ。…ねぇ、さっきの話、覚えてる?」
「さっきの話って…リビングにいた時に言ってた…?」
「そう、大事な話」
「…何?」

俺は千里と向かい合って、一呼吸置いてから話し始めた。

「前に、さ、告白の連勝ストップしたくないから止めとくって言ったの、覚えてる?」
「ぅ、うん…」
「それ、やっぱ撤回するわ」
「え?」
「俺と、付き合って下さい」

俺は真っ直ぐ千里の目を見て言った。
千里は俺の告白に少なからず驚いたのか、少しだけ目を見張った。俺は続けざまに言った。

「始めはさ、正直言って何とも思ってなかったんだけど、色んな事があって、それらを乗り越えて行くうちに段々惹かれていって…ハッキリ自覚したのは、明の母親の事があった時。あの時に、あぁ好きなんだなって思って。そこからはもう、一直線っていうのかな、好きで好きで堪らなくなって愛しさが募っていった」

俺はまた一呼吸置いて、

「だから、俺と付き合って下さい」

と、もう一度言った。
千里はまだ驚いているのか固まったままで、俺らの間に沈黙が流れた。

「えーと…返事は、今じゃなくてもいいから」

そう言って俺は踵を返して立ち去ろうとした―正直、今までに無くかなり恥ずかしかったのだ―が、千里に呼び止められて、その場に留まった。

「今…するから、返事」

俺はまた踵を返して千里と向かい合った。

「あたしも、ね、始めは何とも思ってなかった。ただノリがいいだけだって。でも、色んな事に付き合っていくうちに翔の事が一つ一つわかっていって…気が付いたらあたしも惹かれてた。こんな気持ち初めてだったから始めは戸惑ったんだけどね。で、その…つまり何が言いたいのかって言うとね……えと、よろしくお願いします///」

そう言った千里の顔は暗がりでもわかるくらい真っ赤だった。

「ホントに、いいの?」
「うん///」

俺はその返事を聞いた瞬間、千里を抱き締めた。

「しょ、翔!?///」
「ありがとう…。一生、大事にするから」

千里の耳元で呟くと、微かにうん、という声が聞こえた。

「それじゃ改めて、これからよろしくお願いします」
「此方こそ、よろしくお願いします」

俺らは顔を見合わせて、ちょっと気恥ずかしくなり笑いあった。

「そろそろ戻るか。俺らがいないのに気付いて騒ぎだすだろうし。それに、朗報もあるしな」
「えっ!もう言うの!?」
「嫌?」
「嫌、じゃないけど…は、恥ずかしい///」
「なら、今度にする?」
「…ううん。今する」
「いいの?」
「うん。恥ずかしいけど、嬉しいから///」
「そっか。じゃ行こっか」

そう言って俺は千里の手をとった。

「翔っ…///」
「いいでしょ?もう恋人なんだから」

恋人、という言葉に反応したのか、千里は顔を真っ赤にした。その顔を見た俺は―何処かで枷が外れたのだろう―気が付けば、右手を千里の左頬に沿えて、千里の唇にキスをしていた。いきなりのキスに千里は更に顔を赤くして、口をパクパクさせていた。

「じゃ改めて行こっか」
「っしょ、翔!///」
「ん、何?」
「何?じゃない!いきなりっ」
「ごめん、ごめん。でもしたくなったから、ね(にっこり)」
「なっ///よくそんな恥ずかしい事をさらっと…」
「ホントの事だからね。でも、ま、俺も恥ずかしいんだけどね」
「全然そんな風には見えないんだけど」
「そこはま、男のプライドって事で。行こ?」
「うーん…」

千里はどうやら納得してないみたいだったけど、一度頷いてから、行こっか、と言った。
それから俺らは手を握り直してリビングに行った。

その後、リビングにいた兄弟達が俺らの話を聞いて大声をあげたのは言うまでもない。


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