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□二人の逢瀬の必然性
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はぁ、と短く溜め息をつきながらトボトボと歩く黒髪の少年がいた。

「参ったな…」

誰にともなく呟く黒髪の少年――帝人はキョロキョロとあたりを見回す。
帝人は今、迷子になっていた。

(何でこんな事になったんだろ…。そうだ、そもそも正臣が――)

事は十分程前に遡る――。

………………………………

「そうだ、ナンパをしよう」

まるで名案だとばかりに言う正臣。

「は?正臣何言って―」
「行くぞ帝人!」

そう言うや否や、正臣はナンパをしに走って行く。

「ちょっ、正臣!待ってって…もう」

帝人の静止の声も虚しく、正臣の姿は人ごみに紛れてしまった。
まだ池袋に不慣れな帝人にとって、正臣の後を追うことはできなかった。

………………………………

そして、現在に至る。
帝人はもう一度キョロキョロとあたりを見回したが、正臣の姿は見当たらなかった。

(携帯にも出ないし…よし、後で一発殴ろう)

そんな物騒な事を考えながら、帝人は少しでも人込みを避けるために、少し通りを外れた。

(あれ?あの車は確か…)

その時、帝人は一度見たら忘れないであろう特徴的な―ドアにアニメのイラストがプリントされた、一台のバンが止まっていた。
帝人がそのバンに近づいて行くと、さっきいた位置からは角度的に見えなかったが、ニット帽をかぶった一人の青年がバンに凭れて立っていた。
徐々に近づいて行くと、向こうもこちらに気づいたのか、片手をあげて挨拶する。

「よぉ」
「こんにちは、門田さん」

門田と呼ばれたニット帽をかぶった青年は、凭れていた身体を起こした。

「珍しいですね。お一人ですか?」
「あー、遊馬崎と狩沢は新刊が出るとかでアニメイトに、渡草は欲しいもんがあるとかで二人と一緒に行った」
「渡草さんもですか?それも珍しいですね」

それ言葉に門田はあぁ、こいつはあいつの趣味を知らなかったな…と苦笑した。

「あいつは…まぁ、な。それよか、お前も一人なのか?紀田はどうした?」
「はぐれちゃいました」
「はぐれた?」
「はい。ナンパに行っちゃって…」

今度は帝人が苦笑する。

「なるほど…それではぐれた訳か」
「……」
「帝人?」

急に黙った帝人を疑問に思ったのか、門田は遠くに向けていた視線を帝人に戻すと、帝人はじっと門田を見つめていた。

「どうした?」

素直に疑問を口にした門田に、帝人は視線を彷徨わせた。

「あ…す、すみません」
「いや、別に謝らなくても。俺の顔に何か付いてたか?」
「違うんです。ただ…その、久しぶりだなぁと思って」
「?」
「えと、あの、二人きりに、なるの」

あぁ、とやっと得心がいったように門田は頷く。

「何かと遊馬崎達といるからな」
「嬉しいです。偶然でも、二人きりになれて///」

照れくさいのか、帝人は少し俯き気味に言う。

「今度、どっか行くか。二人で」
「え?」

突然の門田の提案に、帝人は呆けた声を出してしまう。

「俺も二人きりになれるのは嬉しいしな。嫌か?」
「そっそんな事ありません!行きたいです!」

慌てて否定と肯定をする帝人に苦笑し、門田は優しく帝人の頭を撫でた。

「じゃ、どこ行きたいか考えとけ。空いてる日、連絡すっから」
「はい!」

帝人の満面の笑みを見て、門田はもう一度帝人の頭を撫でた。
それからしばらく、帝人と門田は遊馬崎達が戻ってくるまで、二人きりの時間を楽しんだ。


二人の逢瀬の必然性


(あ、あの、門田さん。お願いが、あるんですけど…)
(何だ?)
(皆さんが戻って来るまで、手を…その、繋いでもらってもいいですか///!?)
(あぁ、ほら)
(ありがとうございます///!!)
((ヤバい、可愛い過ぎる…///))


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