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□その囁きは
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薄暗い、月明かりのみが差し込む部屋の中で、月明かりに照らされた一人の少年が蹲っていた。
少年のいる部屋の中は静寂が包み込まれていたが、唐突にその静寂を破る声が部屋に響いた。

「帝人君」

しかし、その声は少年のものではなかった。
その声の主はゆらり、と部屋の闇から抜け出し、その姿が月明かりに晒された。

「臨也さん…」

臨也、と呼ばれた黒に包まれた青年は、ゆっくりとした動作で少年―帝人に近づき身を屈める。

「大丈夫かい?帝人君」
「どういう意味、ですか?」
「可哀想にね。君はまた、置いて行かれたわけだ」
「――っ!」

瞬間、帝人の目が見開かれた。

「幼馴染に置いて行かれ、好きな人にはダラーズを抜けられ…本当に可哀想」
「今、なんて…」
「ん?」
「何で知って…」
「あぁ、静ちゃんのこと?知ってるよ、君が静ちゃんのことが好きだってことくらい、ね」
「ど、うして…」
「ずっと見てきたから」
「…え?」
「僕はね、帝人君。君のことが好きなんだ。愛してるんだ。人間としてではなく、君個人として」

臨也は帝人の頬に手を滑らせ、撫でる。

「俺のものになりなよ、帝人君」
「…できません」
「何で?」

臨也は尚も帝人の頬を撫で続ける。

「僕は、静雄さんが好きなんです」
「知ってるよ」
「だから――」
「だから無理だ、って?」
「はい」

臨也は帝人の頬から手を離す。

「俺は君を置いて行ったりしないよ、静ちゃんや、君の幼馴染君と違ってね」
「……」
「淋しいんだろう?悲しいんだろう?苦しいんだろう?置いて行かれて――捨てられて」
「――っ!」

帝人の目が見開かれ、明らかに動揺しているのが、臨也には手に取るようにわかった。

「おいで、帝人君。慰めてあげる。俺が、愛してあげる」
「で、も…」
「いいんだよ、帝人君。もう楽になっても。君は十分傷ついた。それに、静ちゃんが君に振り向くことは――ないよ」
「っ!」

臨也の言葉に帝人の瞳が潤む。

「さぁ、おいで帝人君」

臨也は腕を広げ、帝人はその中に飛び込んだ。

「いい子だね。安心して。俺は君を置いてどこかに行ったりしないよ」
「絶対、ですよ」
「うん」


その囁きは
(悪魔か天使かそれとも――)


((やっと手に入れた。やっと、この手に堕ちた。二度と離さないよ、帝人君――))


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