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□優先順位
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今日は休日で、特にする事もなかった帝人は、池袋の散策に出ていた。
いい天気だなぁ、と腕をぐっと伸ばし伸びをした瞬間、自動販売機が宙に舞っているのが見えた。

「え……」

何かの見間違えかと思ったが、続いてした大きな、何かが壊れるような音と、ざわつく周囲の声に、現実なのだと実感する。
そして、自分の胸が歓喜にうち奮えているのがわかった。
そこからの帝人の行動は早かった。
帝人は一直線に自動販売機が見えた方に足早に向った。
大通りを外れ路地に入ると、何やら悲鳴じみた声が聞こえてくる。
その声を頼りに歩いて行くと、角を曲がったところで何人かの人影があった。
その中で最も目立つバーテン服を着た長身の男が拳を揮うと、周りにいた数人の男達が吹き飛んだ。

「も、もう勘弁してくれっ!」
「てめぇらから絡んできたんだろうが。だったら殺されても文句はねぇよなぁ?あぁ?」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」

地を這うような静雄の声に残りの男数人が腰を抜かしながら情けない声を上げ、後退する。
静雄は傍らにあったもう一台の自動販売機を持ち上げる。
それを見た男数人は顔を青くし、どうにか逃れようと尚も腰を抜かしたまま後退する。
静雄が自動販売機を投げつけようとした瞬間――

「静雄さん!」

と、静雄を呼ぶ声がした。
静雄は動きを止め、声のした方を振り返ると、帝人が立っていた。
静雄は帝人の姿を視界にとらえるとすぐに、自動販売機を降ろし、帝人の方に歩いて行き、帝人を抱きしめた。

「わわっ、いきなりどうしたんですか?静雄さん」
「んー」
「あの、静雄さん…?」
「ちょっとだけ…」
「え?」
「ちょっとだけ、このままで」
「わかりました」

帝人は静雄の背に腕をまわし、抱きしめ返す。それに安堵したのか、静雄は息を吐き出し幾分力を緩めた。
と、そんな二人の世界に入ってしまった静雄を帝人を無視し、残った数人の男は倒れた男達を担ぎ、今のうちにとそそくさと退散していった。
静雄はそんな男達を気にも留めずに帝人を抱きしめていた。


優先順位
(何よりも優先すべきものは、)


(それで、どうしたんですか?)
(あー…いや、ちょっと色々イラついててな、それで…)
(治まりましたか?)
(あぁ、サンキュな)
(どういたしまして。…あ、さっきの人達逃げて行きましたけど、良かったんですか?)
(いい。お前がいるから、それでいい)
((は、恥ずかしい///))


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