NARUTO
□恐怖の再発
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目、眼、目。
見渡す限り、シカマルの周りには目しかなかった。
小さいシカマルにとって、それだけでも恐怖であるのに、その目はどれもどこか冷たいものであった。
「う…あ……ぁ…っ」
耐えきれなくなったシカマルはついに泣き出してしまう。
それに伴って周りの目はゆらゆらと揺れる。
「シカマル!」
シカマルが本格的に泣き出しそうになった時、目の合間を縫ってシカクがシカマルのもとに駆け寄って、抱き上げた。
「大丈夫だ、もう大丈夫だからな」
元々あまり泣く質でないシカマルの泣き声が聞こえて慌ててやって来たのだろう、シカクの息は乱れていた。
しかし、どうにかシカマルを安心させようとポンポンとシカマルの背中を叩く。
シカマルが落ちついたのを見ると、シカクは急いで自宅へと帰った。
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「どうしたの!?」
慌てて帰ってきたシカクとしゃくりあげているシカマルを見てヨシノは一旦シカマルを布団に寝かせ、シカクに何があったのかを聞いた。
「俺にもわかんねぇ…。ただ俺が行った時、コイツは一族の奴らの中心にいた」
「もしかして、気付かれたのかしら…?」
「かもしれねぇ」
シカマルは、実のところとても頭の回転が速い子供だった。
それは元より頭の良い奈良一族においても群を抜いており、大人顔負けだった。
その事実に最初に気付いたヨシノはシカクに相談した。
いくら頭の回転が速いといってもシカマルはまだ子供。物の分別が上手くつかない幼子だ。それを良いことにシカマルの頭脳を何かに利用されかねない。その為、話し合った結果、奈良夫妻はこの事を隠すことにした。せめて精神年齢が頭脳に追いつくまでは、と。
しかしその願いも虚しく、シカマルの頭脳の事が奈良一族にバレてしまった。
そしてバレてしまった以上、今後シカマルに何もないとは限らない、否、考えられない。
どうするかと悩んだ結果、本家を隔離することにした。つまるところ、本家の家を結界で囲み、奈良シカク、ヨシノ、シカマル以外の出入りを禁止した。むろん火影には許可をとって。
そうすることで、シカマルを守り、彼の成長を見守った。
シカマルは成長するにつけ段々と立ち直り、隔離して直後は出ようとしなかった外にも出るようになった。
アカデミーに通う歳になった時、シカク達は心配したが、シカマルは大丈夫だと言い、アカデミーに通った。
その事はシカマルにとって良い方に働き、友達もでき、昔のことなど無かったかのように、平和な日々を過ごしていた。
しかし、シカマルが下忍になり、それなりの数の任務をこなしていた時、事件は起こった。
「おや、君はもしかしてシカマル君かな?大きくなったねぇ」
Dランク任務を無事に終え、今から焼き肉に行こうかと行っていた第十班の前に、現れた男はどこかシカクに似ていた。
「え、と…」
声をかけられたものの、シカマルはこの男の事がわからず、首を傾げた。
「あぁ、覚えてないのも無理はないね。何せ会ったのは君がとても小さい時だったからねぇ」
そう言って男はにこりと、否、にやりと笑った。
「あ…」
シカマルはその笑った男の蔑むような、冷たい目を見て思いだした、思いだしてしまった。幼子だった時の、あの時の恐怖を。
「あ、あ、あ……あああああぁぁぁぁぁ!!」
突然叫び出し、しゃがみ込んでしまったシカマルに動揺を隠せないいの、チョウジ、アスマ。そしてその大声を聞いて、何事かと集まって来る忍達。その場は騒然となった。
とりあえず落ち着かせようとシカマルに近づこうにも、シカマルが暴れてしまい近づけなかった。
どうしようかと思っていた時、その場に飛び込んできたのは彼の父、奈良シカクだった。
「シカマル!落ちつけ、大丈夫だから」
シカクは一度影真似でシカマルの動きを封じ込めると、彼を抱きしめた。
「大丈夫だ、大丈夫だから」
「うあ、あ、ぁ…」
やっと暴れる事を止めたシカマルは、くたりとシカクに凭れかかった。
「あの、シカクさん、どうなったんですか?シカマルは」
「気ぃ失っただけだ。悪かったな、驚かせて。いのちゃんとチョウジ君も」
遠慮がちに問いかけてきたアスマに、シカクはシカマルを抱き上げながら真剣な顔つきで答えた。
「おじさま…」
「シカマルは…」
心配気な顔つきでシカマルの事を尋ねてきたいのとチョウジに苦笑しながら、大丈夫だと二人の頭を撫でた。
「もしあれだったら、明日家に来てくれ」
それだけを言うと、シカクは三人に背を向け、事の元凶である男に向き合った。
「二度とシカマルに近づくなと言ったはずだ」
シカクから男へと発せられた声は殺気を含んだ、普段のシカクからは考えられない程のドスの利いた声だった。
「偶然会っただけですよ、そんなに怒らないで下さい」
「黙れ。偶然とはいえお前は掟を破った。今度の会議で問題にする。覚悟しておけ」
それだけを男へと言い放ったシカクはその場から姿を消し、重苦しい空気が消えた。
男はあぁ怖い怖い、と飄々とした口調で言いながらも、背中に嫌な汗を掻いているのを感じていた。
恐怖の連鎖
(あんなに怒ったシカクさん初めて見たぜ…)
(私も…)
(僕もだよ…)
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