DARKER THAN BLACK

□聖なる夜に日常の幸せを
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 日に日に賑わいを見せる街に蘇芳は少しの疑問を覚えたが、木々が飾り付けられている様子を見て「ああ、そういえば」と納得した。
 赤い服の老人が空飛ぶトナカイに連れられて世界中にプレゼントを配る日らしい。
 この際、不法侵入だとかプレゼント予算の出現場所は、だとかは置いておく。

「サンタさん……か」

 実際のところサンタ・クロースがいない(しかし、いないという証拠も持っていないため、確実とは言い難いが)ことは知っているし、代わりに親が枕元にプレゼントを置いていることも知っているのだが。

「僕、もう中学生だし」

 一年に一度の仕事は一日で世界一周しなければならず、ならばそれなりの給料的なものが欲しいところだが、逆にプレゼントの出費がかさむ哀れなご老人(に成りすましている親)が対象とするのは良い行いをした子供。

 中学生で大人になったとは言い難いのかもしれないが、サンタを信じる子供でもない。
 とても微妙な年代ではあるのだが、これが暗黙の了解である。

 それに蘇芳にはそのようなサプライズをする親はいない。
 父は死に、母には気味悪がられてしまう始末。

 実際、死んだはずの人間が現れてみれば、自分だって取り乱すはずだ。蘇芳は自傷気味に笑ってみる。

「あいつなら……いるけど」

 そこで、不意に保護者の男を思い出した。無感動な濃紺の瞳に吸い込まれるような黒い髪。
 大酒飲みでよく殴る彼は最近になって少しはまともな人間となった。ついでに若干の優しさも見せている気がする。

 彼がサプライズ的な何かをするか、と聞かれたら即否定できる自信が蘇芳にはあった。

 そのような行事に興味も関心もないようで、皆がフライドチキンを買う中、一人だけ白菜と豆腐を買って「鍋にする」なんて言える男なわけだ。

「あの黒が、クリスマスなんて」

 覚えているわけがない、と続けようとした時、今の今まで頭の中を占拠していた男が人混みの中にいるのを見つけてしまった。
 人に顔を覚えられるのはあまり良いことではない、と昼に買い物を控える彼が街の真ん中に立っている。

 まさか、ともう一度よく見ても状況は変わることなく、街中のショーウィンドーの前で何かを眺めているのが目に入った。

「……何してるんだろう」

 見つけてしまった以上素通りするわけにもいかず、小走りで近付けば、彼が眺める店が洋服店であることが分かる。
 しかし彼が洋服に興味があるなんてことは初耳だった。別に誰が何に興味があろうと関係はないのだが。

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