DARKER THAN BLACK
□救いを求める少女の先に
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名前はありませんが、敵として原作には登場しない人間が出ています。
そういうのは苦手だ、という方は申し訳ありません。
目の前は暗闇、横からは汚らしい男の笑い声。どう考えても快適とは言えない状況に蘇芳は立たされていた。
手首に走る痛みは少女を縛るには十分すぎる力で締められた縄のせいだろう。そして後ろ頭に感じる太い感触は銃か何かが突き付けられた証拠。
何という無様な姿なのだろう。蘇芳は今朝起こったことを頭の中に映し出しながら、心の中で自らを罵倒した。
至って普通の朝。
ただ一つ違うのは、黒の姿がない事だった。
前日の夜に聞いていた、やるべきことがあるから一日家を空ける、と。そしてその言葉通り彼はいなかった。
ただテーブルの上には二人分の朝食がしっかり用意されていて、妙に嬉しかったことを覚えている。
そして事件は起きたのだ。
不意に扉の向こうからノック音が聞こえた。指定された数のノックでなければ開けてはいけないという黒の教えを忠実に守り、無視を決め込んだのだ。
が、次に鳴ったのは諦めの溜め息ではなく硬い三発の銃声だった。強引にドアノブごと壊して入ってきた五人の男共は蘇芳の顔を見るなり、不気味な笑みを見せて痰の絡んだ声で言う。
「さあ、譲ちゃん。一緒に来な」
それに「分かった」などと素直に応じてやる義理はなく、ライフルを取りだそうとした瞬間。
口元を覆った湿り気のある布から放出する甘い香りが鼻についた。吸ってはいけない、と頭では分かるのだが反射的に鼻と口は動いていて、みるみる内に意識はなくなっていた。
―――そして今に至る。
止まれ、という男の言葉で蘇芳は従い歩く足を止める。次に座れという指示でゆっくりと地に腰を落とした。
すると何か腹の辺りに細い感触があり、徐々に強まるそれに蘇芳は縛られているのが分かる。
終わると暗闇を作っていた目隠しが取られ、辺りがゆっくり見え始めてきた。
明かりは頼りないランプ一つで薄暗く、重厚な機械類が所々に鎮座しているのを見れば閉鎖された工場なのだと想定できる。
「捕まえてどうするの?僕を捕まえても黒は誘き出せないよ」
周りにいる五人の男に話しかけ翡翠の瞳で睨んでやる。
すると、その内の一人が膝を折って蘇芳と目線を合わせると、試すように身体全体を見渡した。
「用があるのはお前だ、餓鬼。未発達の女契約者、それに珍しい赤の髪は金になる」
男は蘇芳の赤い髪を手に絡ませて言う。
この時点で蘇芳の羞恥の限界は近く、一発殴ってやりたかったが、男の発言で気になることがあったのでやめておく。(どうせ手首を縛られているため叶えられないのだが)
「………金?」
その疑問に男は何がおかしいのか急に笑いだし、蘇芳の頭にあった手を顔から首へ、首から胴へ、そして太ももへと動かす。
「簡単に言うなら…人身売買。オークションで勝ち取った奴がお前を煮て食い、焼いて食う」
つまる所、財力に溺れる金持ちが人を買い良いように使う。良くて契約者だから、と護衛に。悪くて性欲を満たすために。
そこまで考えて蘇芳は若干の吐き気を覚えた。
「最低だ」
「それは買う方に言いな」
そう言うと男は口元をつり上げ蘇芳の股関節に足を乗せ体重をかける。蘇芳は小さくうめき声を上げると、その足は案外簡単にどいてくれた。
「だから、あんま傷物にできないんだよ」
それからバケツ一杯に入った泥水を頭から被せられ、粘着質の物体が口や服の中に入ったが、おかまいなしに睨みつける。
翡翠色の瞳をぶつけられた男達は怯むどころか、幾らか楽しむように互いの顔を見合い、小さく笑った。
「そんな顔されても、ね」
最大限の威嚇も彼らを喜ばせるだけのもので、相手への憎悪と並んで自らの非力を呪う。
契約者として訓練はしてきたつもりだった。黒を恨んでいたあの時から、武器の使用方法や臨機応変な体術など、能力以外のこともこなしてきたはずなのだ。
しかし実際、敵に囲まれれば脅え、人を殺すことはできなかった。現に目の前で笑みを浮かべる彼らには油断し、捕まり、そして逃げられないでいる。
情けない、そう思わざる得なかった。
こんな時、彼ならどうするのだろう。
目の前で汚く笑う男たちを横目で見て蘇芳はそう考え、小さく溜め息を吐いた。
「………黒」
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