DARKER THAN BLACK

□この紅い光を守る者
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「ねぇ、黒」

「………ん?」

 茜の色から闇色に変わった空には無数の星が浮かんでいた。淡い光や眩い光、偽りの空だと分かっているのにすごく神聖なもののように思える。
 窓から見えるそれらを仰いで蘇芳は呟くように隣の黒を呼ぶ。

「僕の星は、どれかな?」

 目線は空に向けたまま、問いかけた。きっと黒は困ったような顔でもしているんだろうな、と頭の片隅で考える。

「あれだろ」

 思いの外早く返って来た答えに若干驚きながら、黒が上げた指で差す星を探す。
 それは紅みがかった小さな星。銀色に輝く他の星と比べると、異端で光は弱い。

「ちっちゃ……」

 思った通りに、思った事を口に出すと隣の男は何がおかしいのか声を殺して笑い出した。
 なんだか馬鹿にされているように思えて、少し頬を膨らませる。

「お前はあれが丁度いい」

 まだ笑い足りないようで、口元を緩めたままそう言った。
 本人がいる前で失礼な、と目を細めて隣を見ると、今までに見たことのないような穏やかな表情で、その瞳は愛しいものでも見るようなそんな優しさも含んでいる。

「……なんでさ?」


 もう一度視線を空の紅い星にやる。やはり他の星と違う紅星は仲間外れにされているような気がした。
 理由を尋ねると、今度は困ったように眉を寄せ黒は紅い星と蘇芳を見比べる。
 これで理由が「馬鹿そうだから」なんてのが返って来たら顔面をライフルで撃ち抜いてやろう、と決意した。

「ねぇ、なんで?」

 再度聞く。
 肝心の黒はまだ空を見上げたままで、濃紺の瞳に紅い光を取り込んでいる。

「分かる、だろ?」

 小さな声が夜風に流れる。蘇芳はそれに「え?」と聞き返し、上を見上げた。

「他の星と違う。だから、お前が今どこにいるのか、何をしてるのかが分かる」

 唄うように、流れるように言われたその言葉に蘇芳は見上げていた翡翠の瞳を慌てて隣の黒髪へと向ける。
 彼の細められた目は優しく、柔らかなものだった。

「だから、ずっとお前を守り続けられる」

 もう大切な人を失うのは嫌なんだ、と彼は続けて静かに微笑む。
 その表情を見、蘇芳はひとつ息を飲んだ。それから真上に昇る紅い星を見上げる。


「お前を、流したりはしない」

 静かな夜だから聞こえるような黒の言葉。だが、力強く頼もしい音となって蘇芳に届く。
 いつもなら、こんなこと言われたらきっと、照れ隠しに皮肉めいたことしか言えない。
 だけれど、その恥ずかしさは永遠に続きそうな深い闇に吸い込まれたのだろう。胸の中は穏やかで気持ちが良かった。
 そして翡翠の瞳を瞼の奥へ隠してから呟く。



「………うん」


 少し距離を置いていた肩をくっつけて暗い空を見る。
 寒い夜風が木々を揺らす中、この空間だけは暖かく優しかった。

 隣に座る彼がいるなら、あの淡く小さな紅い星はきっと流れはしないだろう。







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 何も設定しないで書き始める奴なのでシリアスにしたいのか何にしたいのか、はっきりしない。
 悪い癖です。







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