DARKER THAN BLACK

□モモンガと死神と空色の本と
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料理は意外と時間がかかる。しかもそれは待ち時間の方が断然長いときた。

それは料理上手で知られる黒とて例外ではなく、サラダのためのじゃが芋と人参を茹でている間は何をしていいものか、と悩んでいたらしい。

そこで―――

「何してんだ?」

可愛らしい外見から打って変わって中年男の低い声がモモンガのペーチャ、もといマオから発せられた。

「昼食の用意だが?」

返しは「それがどうした」とでも後に続きそうな不満たらしい黒の声。
それに怖じ気付くこともなくマオは小さな指で黒の手元を差す。

「そりゃ分かる、手に持ってるのが何かって聞いてる」

「だったらそう言え。本だ」

確かに黒の手には薄く、小さな本が広げられていた。しかし本のカバーは外され、何を読んでいるのかは検討がつかない。

外見は可愛らしい空色で内容は兵法です、なんてことは多分ないだろうが取り敢えず聞いてみる。

「違う、何の本かだ。学習能力を知ってるか?」

皮肉混じりにマオが言うと、黒は目を細めて口元を上げた。

「そのまま返す。モモンガに学習能力を説かれるとは、近頃の動物は進化したのか」

「元は人間だ」

そう言ってマオは小さな手を力いっぱい振って空色の本を取り上げようとするが、黒はそれを頭上まで持っていってしまう。
こうなれば人間とモモンガの体格差、マオに勝ち目はない。
唸るように声を上げ、マオは黒の頭上に掲げられた空色の本を凝視した。


「黒……俺をネコだったあの頃と同一視しない方がいい」

どこか勝ち誇ったようなマオの言い草に黒は若干考え、眉間に皺を寄せる。
確証があってのことか、それともただの負け惜しみか。

マオは大きな目を不適に細め、少し後退った。


―――次の瞬間



足に力を込め、腕を目一杯伸ばし羽を広げたマオの身体は宙を浮いた。
何が起こったのか頭の中で整理が追いつかない黒が我に返り、狙われている手の本に意識を移動させるがもう遅い。
頭上の手に持たれた空色の本の上には茶の物体が着地しており、不適な笑みを見せるそいつは四本の手足でがっしりとお目当ての本を掴んで地に降り立った。

「………なっ」

あまりの出来事に言葉が出ない。驚嘆と表現すればいいのか、あの小さなモモンガの身体を巧みに利用し、目的物を奪ってしまう身のこなし。


「だから言っただろう………あの頃と同じじゃあない」

渋みを効かせた声色。

奪われたのは外見で判断した自らの失態である、と黒は小さく下唇を噛んだ。


マオは一つ微笑んで、空色の表紙を捲る。
さあ、黒の死神として恐れられていた彼は一体何を読むのだろうか。淡い期待で一頁目に書かれていた題名は―――





《正しい子供の育て方》



‐‐‐‐‐

もう何と言ってお詫びを申し上げたら。
きっと蘇芳とジュライが正しい大人になれるような本を読んでいたのでしょう。
最初の料理のくだり何
でも楽しかった…



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