DARKER THAN BLACK

□この白い雪の中で
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淡く降る雪。

地面をほんの少しだけ白色に変えていく。ロシアでは珍しいものでもなかったが、東京で見る雪はどこか儚げで淋しい。
これが淋しいという感情なのかは分からないけど。

そこまで考えて蘇芳は大きく空気を吸い込んで、これまた大きく吐き出した。
白色の水蒸気が大気と混ざり合い消えていく。なんだか東京の雪のよう。

「何をしている?」

後ろから聞こえた低い声に反応して振り返り、その人物に認識すると「別に」とそっけなく返した。
それと同時に声の主、黒は溜め息を吐き出し、先ほどの蘇芳と同じように白の水蒸気が空気中に舞わせる。

「風邪、ひくぞ」

そう言って近づいて来る黒の手にはいつも彼が羽尾っている黒色の外套。それをゆっくりと蘇芳の両肩にかけた。

長身の黒でさえも膝下まで隠れてしまう外套は、蘇芳が羽尾ると先端が地に着いてしまう。落ちている雪で随分と濡れているようだが黒は気にしないようだ。

最近、黒は優しくなった、気がする。不器用なのか何なのか、普段は無表情で人の言うことも聞かないくせに、たまの小さな行動一つ一つが何となく優しい。

「黒、最近優しいよね」

それが声に出ていて、聞こえていたらしい黒は面食らったように若干目を見開いている。最近ではそんな表情の変化も時たま見られる。

しかし、すぐにいつもの無表情。


「俺はいつでも優しい」

こんな返答が来るとは思っていなくて驚きのあまり一瞬固まったが、蘇芳は目を細めて黒を凝視する。

「面白くないよ」

「別にお前を笑わせるために言った覚えはない」



それがあまりにも真面目な言いようだから、込み上げる笑いを抑えることができず、蘇芳は小さく吹き出した。
その反応に黒は眉間に皺を寄せ睨みを効かすが、あの会話の後では恐れも焦りも浮かばない。

「訂正、面白い」

「何なんだお前は」

その後は黒の顔を見る度に笑いが込み上げてきて、これが心からの笑いなのかは知らないけれど、何かすごく楽しい時間だったことは覚えている。

始めはこんな奴と旅を続けることが嫌で嫌で仕方なかったのに。
今じゃこんな時間が一日でも長く続きますように、なんて考えている。
この感情が持てるなら契約者として未熟でもいいのかもしれない。そんな事を考えて、蘇芳はもう一度白色の息を吐き出した。







―――――

黒に「笑わせるために〜」を言わせたかっただけ、な話。
なんだかいつも「だからどうした?」って文しか書けないのが悩みです。




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