DARKER THAN BLACK

□この気持ち知った時
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僕の記憶が消えてしまう。

薄れていく意識の中で必死に思い出そうとするのに、頭の中は空っぽだった。
必死に今までの経緯を遡ろうとするのに塞き止められた記憶は僕の中に入ってこない。

ああ、きっと…もうすぐこの忘れて行く記憶があったことすらも忘れてしまうんだ。

そう思うと自然に涙が出てきて、だけど何に悲しんでいるのか何を寂しいと思っているのか分からない。

それでも涙は止まることを知らず。暖かな水が頬を伝う度、混乱して辛くて、助けて欲しいと誰かに願った。


「………黒…」

自然と出た言葉は人の名前で、ぼやけた記憶の中で黒い髪と濃紺の瞳、それから低く優しい声が鮮明に映し出される。
大酒飲みで、すぐに殴って、笑いもしないで何考えているのか分からない奴。だけど僕の交換条件を呑んで酒は飲まなくなったし、殴ることもなくなった。相変わらず何考えてるのか分からないけど。

そう考えて口元に少し笑みを作り出した。

黒のことを考えているとなんだか幸せな気持ちになる。
そんなことを黒に言ったらきっとまた無表情で「そうか」なんて返してくるに違いない。


瞼が重くなる。

もうすぐ、深い眠りに付くのだろう。どこか他人事のようにそう思った。
今ここで目を閉じればきっと二度と開くことはない。この辛くて苦しい感情からも解放される。

だけど―――



そこまで考えてふと身体に暖かななものが触れた。
人間の身体のような。


そして優しい匂いが鼻について懐かしい温度が染み込んでくる。


「……黒………」

止まりかけていた涙がまた溢れだした。もう止まらない。

洪水のように今までつっかえていた記憶の波が溢れだす。

彼とジュライとマオと、衝突しながら駆け抜けた日々。
意外に黒が料理上手なこと。
初めて黒に名前を呼ばれた時のこと。

黒が自分を自分自身を見ていてくれていたこと。

またあの四人で旅がしたい。戦いもない、ただ行きたい所へ、ただ目についた所へ。
そして黒のおいしい手料理を、たまにはロシアの料理も一緒に作って。

――それだけでいいんだ。


「黒……また旅、できる?」

掠れた声を彼に届けた。自分を優しく抱き締めてくれている彼に。


「あぁ……できる」

いつもは嘘が上手いくせに今は僕より下手くそで。
そんなんじゃ騙されないよ、と一つ微笑んでみた。

薄れていく意識の中で最後に見たのが黒で良かったなんて思って、ああ、これが恋なんだって今更になって分かった気がした。


そして僕は瞳を閉じる…。







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最終回泣いた。もうみんないい子!

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