DARKER THAN BLACK

□ある日の朝
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小気味の良い音と香ばしい香りで蘇芳は固く閉じていた目を開けた。
隣にはまだジュライが眠っているので静かに布団から出る。
音や香りは台所の辺りから流れてくるもので、それにつられてフラフラと発信源に足をのばした。

「……黒?」

そこに立っていたのはどう見ても紛れもない黒で、よだれの出そうな音と香りを作り上げているのもやっぱり黒であるのだ。

「どうした」

気が付けば黒の隣に来ていて器用に動かされる手を凝視している。無駄のない動き、なんて考えていれば黒から声がかかってとっさに出た言葉は。

「ご、ごめん」

謝罪だった。

「何故謝る」
「いや…邪魔かなって」
「……別に」

会話の中でも黒の手は休まることなく、数枚重ねたキャベツを綺麗に切っていく。


他の惣菜もほぼ完成していて、ハムエッグやらスープやらがテーブルの上に所狭しと置かれていた。

「美味しそう…これ全部黒が作ったの?」

その問いに黒からは「あぁ」と短い肯定が返って来る。

行儀は悪いがスープの中の人参を一つつまんでみる。
押し付けがましくないダシの味と程よい固さの野菜が見事に調和してとても美味しい。いつかの雑草スープとは全てが違う。

「すごい…料理も作れるんだ…」

「大したことじゃない。……蘇芳、ジュライを起こしてこい」

そう言って近づいてくる黒の手には温野菜として変貌したキャベツが持たれている。
テーブルのわずかな隙間にそれを置くと「早くしろ」と黒は顎で寝室を差した。
それを見て蘇芳は寝室へ足を進めたが、数歩行ったところで動きを止め黒の方へ振り返る。




「こんな美味しいの作れるなら……僕の雑草スープなんて食べられなかったでしょ」

皮肉げに言えば黒は無表情のまま、だがどこか驚いたように蘇芳を見た。それから「別に」と一言返す。


「……でもっ」

なぜだか分からなかった。
しかし、どうしてか涙が眼に溜まる。溢れそうになる涙をぐっと堪えるのに意志とは反して目頭が熱くなるのだ。
黒が近づいてくる。恥ずかしい顔を見せたくない、下を向いた蘇芳にかけられた言葉は罵倒や嫌味ではない。


「お前の、蘇芳の飯を残す理由はなかった、それだけだ…」

そして蘇芳の頭を軽く撫でると黒は元いた台所に戻ってしまった。

何をされたのか、黒が一体何をしたのか理解するまである程度の時間がかかった。
撫でられた頭を自分の手で撫でてみる。


どうしてだかすごく暖かくて嬉しくて、心地よかった。

心臓が破れてしまうのではないかというほどに速く脈打ち、顔は火のように熱くて。
泣きそうになっていたくせに、今は恥ずかしいくらいの笑顔になって。

そんな感情豊かな、ある日の朝――



「ジュライ、起きて。マオも」

顔を赤く染め綻ばせながら蘇芳はジュライを起こしに行った。




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蘇芳すきです。
みんなすきです。

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