BL

□迷惑メーラー
1ページ/2ページ

 駅前のファストフード店というのは往々にして大混雑しているものだ。別にそれに関してどうこう思うほどダイキは田舎者ではなかった。もうこの大都会に通うようになって4年になるので、店の混雑も電車の混乱もこれっぽっちも気にならない。1人、ファストフード店でいつもと同じセットを注文し空いている席を探す。比較的空席が見つかりやすいのは喫煙席なので、自身は吸わなくてもダイキは喫煙席に足を向ける。2階の窓際の席がポツンと一つ空いていたので、そこに着いた。まったくいつもと同じだ。
 ダイキは今年大学4年生になった。先の3月、某有名テレビ局に入社が決まって、忙しく就職活動を続ける友人たちの妨げになるまいと日々授業以外の時を独りで過ごしている。時々は疲れた友人の相談に乗ったり息抜きに遊んだりしながら。彼女は居ない。去年の夏に別れてしまったからだ。理由は彼女の方が就職活動で恋愛に現を抜かしている暇は無いとのことだった。お互い結婚なんて考えても居なかったし、夢もあったから後腐れなく別れられた。それだけサバサバした友情に近い付き合いだったのだ。今も時折会ったりメールで連絡を取り合う程度には音信がある。
 ケータイを開くとメールが2件。一方は別の大学に通う幼馴染の友人のケンタから。もう一方は所謂迷惑メールというやつだった。ケンタからの他愛もないメールに手早く返信すると、ダイキは迷惑メールを読み始めた。女性が性交渉の相手を求めているというような内容で、「淋しい」という言葉が多用されていた。ハンバーガーにかぶりつきながらダイキはノートパソコンを鞄から取り出した。
 メールの送信元を割り出してみる。これはほんの出来心ではじめた密かなダイキの楽しみだった。最初は友人をからかうために考え出したものだが、今は違う。ダイキの楽しみは迷惑メールをもてあそぶことだった。
 いくつかの手順を踏んで割り出した送信元にダイキは驚いた。なんとそのメールはダイキのいるファストフード店から線路を挟んで向こう側のホテルから送信されたものだったのだ。顔を上げてホテルを見る。いくつかの部屋には人影や宿泊者があらうのであろう生活感があった。ダイキは少し迷った。迷惑メールを送信しているのあh女性の文面であっても女性であるとは限らない。最悪犯罪に絡んでいることだってある。しかし、ダイキの心に引っかかったのは「淋しい」の多さ。少なからず自覚のあるダイキは、ついに店のネットワークを拝借してメールを送信した。出来るだけ当たり障りの無い文章で「何号室に居ますか」という質問を含んだ文章を作った。すると、メールの返信は覚悟していた事務的なものではなかった。女性の文面は崩さずにしっかり番号を入れて返してきたばかりか、向こうもダイキと同じことが出来るのだろう、なんと、窓辺に立って手を振ってきたのだ。7階の角から二つ目の部屋。窓から手を振っているのはダイキよりもやや若いと見える男だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ