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□ドドメビビッド
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 指先に少し力をこめると、ぱちぱちと音を立てて無機質でチカチカ光るだけの画面の上に文字が綴られていく。特に意味の無い記号が繰り返し繰り返し。左から右へ、右から左へ。ぐるぐる回る時計と一緒に、ぐるぐる回る地球と一緒に、画面の上を記号が走り回る。指先が自由に操るまったくどうしようもない記号たちが、自由意志を持たずにただそこで動き回っているだけだ。最後はダストボックスへ落ちる。ぐるぐる回る時計も一緒に、ぐるぐる回る地球も一緒に、ダストボックスへ落ちる姿を夢想する。
 意味のある記号は何だ。定義は。基準は。絶望的にいつだって足りない。あまるものは何にも使えないようなガラクタばかりで、大事なものはいつだってたりなかった。それは意味のある記号であり、その定義であり、基準であった。言い換えれば、思いであり、ぬくもりである何か。
 チカチカの向こうで、ぺらぺらの向こうで、幾億の命が消え去り、太平洋を真っ赤に染めるほどの血が流れ、誰かは人の頭皮を剥いで、誰かは人の頭蓋を煮て、また誰かは人で実験した。チカチカのドロドロと流れる毒液を見ながら、ぺらぺらの鋭く薄い角を見ながら、どくどくと脈打つものを夢想する。それはいつだって、意味の無い記号をつむぐ指に流れているものとは違うものだった。しかし、チカチカの向こうにどくどくと脈打つ生々しく現実的で、そして薄汚いものを見たとき、ついに意味のある記号を見つけるに至る。伸るか反るかの現実の上で過不足なく交わる、意味のある記号。括弧が上ではじまり下で終わるような、規約的規律的記号の配列。エクスクラメーションで始まってアンパサンドで終わる不協和音を伴うとき、それをこの指で指摘することができる。
 チカチカの向こうの汚らわしくも愛おしきものたちはこの指に流れる血を知るだろうか。その指に流れる血を、脈打つ鼓動を、聞くだろうか。
 

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