恋修

□Rainy day
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なんとなく、雨は嫌いになれなかった





窓を打つ音がやけに耳について、渋々目を開けざるを得なかった

只でさえ朝は苦手なのに、と小さく舌打ちをして身体を起こした


「…って」


悲鳴を上げる身体を擦りながら、隣で眠るコイツを起こさない様に布団から抜け出す


…幸せそうな顔しやがって


着流しを緩めに羽織り、窓の外を眺める
今日が非番である事に心底感謝したくなる程の土砂降りだった





久しぶりだったんだ



ここのところお互いに隊務に追われて連絡すら取れない状態だったから、偶然廊下ですれ違うなんて何でもない事にすらトクン、と少し胸が鳴った

アイツも同じだったら良いのに、なんて笑ってしまう位に女々しい思想を浮かべていたのに


「よ、」


の一言を置いて足早に立ち去るアイツに何故だか少し苛立って、

そりゃ仕事中なのは分かるけど、せめて「久しぶり」の挨拶位は許されるんじゃないのか?

なんて考えてる器の小さな自分に益々苛立って、隊の子に少し八つ当たりをしてしまった







その夜、コイツは久しぶりに家を訪ねてきた



肌と肌が触れ合う感覚を、俺は随分と忘れていた様に感じてしまった
俺の名を呼び、熱く交わすコイツの唇が妙に懐かしかったからなのかもしれない






「何ボーっとしてんすか、」


頭上から聞こえる声と共に優しく両腕に包まれる
何となく、身体を預けてみたくなった


「身体、辛くない?」
「ん、」
「風邪、引きますよセンパイ」
「もうそんな季節じゃねぇだろ」


それもそうか、と小さく笑うと身体に回した右手を俺の髪へと伸ばし、ゆっくりと撫でる



「センパイ、寂しかったんでしょ?」
「…はぁ?」


振り返るとニヤリと笑う顔が意外にも近くて思わず目を逸らす
急に見透かした様な態度を取るのもコイツの得意分野
不思議とコレが外れる事はない
俺もコイツもそれは解っているのだけれど、素直に認めるのは癪に触る


「なにいって…」
「あの去り際の顔、俺忘れられねぇもん」
「なっ…」

耳元で囁かれた一言に耳まで赤くなるのが分かり、堪らず鳩尾に肘を食らわせる


「って…何するんすか」
「…うるせぇよ、」


解かれた腕を振り払い赤くなったであろう耳を隠す

何でコイツにはこう、何でもお見通しなんだろう

照れなくてもいいのに、
鳩尾を摩りながらケタケタと笑う姿は不思議と嫌いではなかった


「俺は寂しかったのになぁ」


再び後ろから抱きとめられた
甘い声で囁かれると少し鳥肌がたったが、背中から伝わるコイツの胸の鼓動が静かに届き、妙に落ち着く


「…ばーか」
「…センパイ?」


回された腕にそっと触れると、観念したように静かに溜息をついた

「言ったろ?」
「…?」
「…二人でいる時は、」
「…あ、」

忘れてた、と言わんばかりに間抜けな声が響く
全く…他に気を回す暇があったら約束の一つも守れってんだ




「修、兵」


自然と胸が鳴るのは、久しぶりだとかそういう理由じゃないと思う
思わず口元が緩んだのがバレる気がして、触れた手に少し力を込めた


案外、幸せそうな顔してんのは俺のほうかもしれない



「よく出来ました」


向きを直すとコイツの顔も少し赤らんでいて、それがまた俺の胸を鳴らして
そっと触れるだけの口付けをした

…珍しい事もあるんすね、
少し驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔へと変わる


「…雨だからな」
「いや、それ意味わかんない」
「…文句あんのかよ」
「全く、」


お互いにクス、と声を漏らすと再び唇を重ねる
今度は深く、ゆっくりと



こんな時間が続くなら
雨の日もやっぱり悪くはないかな、なんて考えながら






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