いろいろ
□指切リ
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急にバランスを崩した吉良を支えると、余りの軽さに動揺を隠すことが出来なかった。
元々細身な身体ではあるが、骨ばった肩は痛々しくて、少し力を入れたら壊れてしまいそうだ。
「おい・・・吉良っ、吉良!」
眉間には苦痛で皺が刻まれ、ハッ、ハッ、と浅い呼吸を繰り返す。
青白い顔には脂汗まで滲み出ている。
熱があるのか。
「・・・気・・持ち、悪・・・」
呂律が回らないのか、声にならない声で訴える。
自分で身体を支えられずに崩れ落ちそうになる。
「・・・動けるか?」
せめて嘔吐感が治まるまで・・・とは思ったが、次第にぐったりとする姿にこちらが耐えられずに吉良をゆっくりと背負う。
「我慢出来なくなったら・・・今日だけは吐くの許す」
「すみ・・・ま、せん」
力なく笑う吉良を、俺は見ていられなかった。
確かにコイツの痛みが分かるのは、俺か雛森くらいだ。
未だ目を覚まさない雛森にしたって、青い顔して笑う吉良にしたって、好きでこんなことになった訳じゃねぇ。
敬愛ともいえる信頼が実は全部フェイクだったなんて、一体誰が予測できただろうか。
一番近くにいた俺達が気付けなかったのは、やはり己が無力だったからではないか。
あの日から迷路の中に取り残された気がしてならなかった。
いっそ壁をぶち抜いて前に進もうか、なんて考えるのは馬鹿野郎のすることだ。
そんな事したら、なにもかも全部一気に崩れちまうだろう?
「――吉良っ!」
「うるせぇよ、場所を考えろ、場所を」
バタバタと駆け込んで来る阿散井を睨み付けると、ヤバイとでも言うように慌てて口を塞いだ。
思わず零れる溜息と共にこっちに来いと手招きをする。
「生きてんすか?吉良」
「洒落になんねーよ・・・」
「そんなに悪いんすか?」
「いや、もう平気だと」
極度の過労と寝不足によるものだと説明すると、そーすか・・・と長い溜息をついてベッドの縁に腰掛け、指で額の汗を弾く。
多分、阿散井なりに親友の身体を心配していたのだろう。
腕に繋がれた点滴の管が痛々しいのと、相変わらず青白い顔をしたままではあるが、それでも規則正しい寝息を立てる姿に胸を撫で下ろしたくなる。
「やっぱ、俺じゃ駄目なんすよね」
暫くの沈黙の後、阿散井が口を開く。
言葉の意味は安易に想像がついた。
「幾ら耳を傾けても、聞こえてこねぇ」
本質的な痛みまで共有することはきっと出来ないから。
そう寂しそうに目尻を下げる姿はいつもの馬鹿で単細胞の阿散井からは想像も出来なかった。
「俺はただ見てることしか出来ねぇんだ」
「阿散井・・・」
「吉良も雛森も・・・檜佐木さんだってたくさん傷ついてるのに、俺は何も出来ない」
コイツは昔から変わらない。
何も考えていないようで実は周りを誰よりも気遣うコイツには、何度も助けられてきた。
俺だけでなく、吉良だって雛森だって、他のヤツらだって同じだろう。
そんなヤツだからこそ、そんな顔はさせたくないと思ってしまう。
コイツは、優しすぎる。
「阿散井は阿散井のままでいいんじゃねーの?」
「・・・っでも、」
「オマエがそんな風に思ってるの、吉良が一番良くわかってると思うけど」
「・・・そーなんすかね?」
「ただ素直じゃねーだけなんだよ・・・」
吉良も・・・多分俺も。
甘え方を知らない、ただの餓鬼なだけ。