いろいろ

□確信犯
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「阿近さーん」

薄暗い薬品臭の立ち込める場所には似合わない甘ったるい響きは耳の奥を静かに擽る。


暇さえあれば此処に入り浸る姿は、表で見せる其れとは違っていて。


それがまた擽ったくて仕方ない。


「ねぇ阿近さん」


気だるそうにソファに寄りかかる子猫の様な姿は俺だけのもんで。


「阿近さん?」


困った様に俺の名を紡ぎだす唇だって俺だけのもんで。


「ねぇ、聞いてる?」


怪訝そうに俺の顔を覗き込む上目遣いな眼も勿論俺だけのもん。


「…絶対聞こえてるでしょ?」


いつからかコイツなしではいられなくなっていて。


「当たり。」


いつからかコイツの困った顔を見るのが何よりの楽しみになっていた。










「阿近さーん」

「…でけぇ声だな」

「この前みたいに無視されちゃ、寂しいので」


そういって頬を膨らます姿からは、コイツが一部隊の副隊長だなんてどうにも疑わしい。


「で?」


吐き出す煙草の煙に嫌がる気配すら見せず顔を近付けてくる。


「あのね、お願いがあんの」
「…内容による」
「何それ」
「で?」


相変わらず冷たいんだから、と溢してはいるものの、俺のそういう態度が決して嫌いでは無いことくらい知っている。


「欲しいんです」
「あ?何を」
「阿近さん、の…」

指を差しながら少し恥ずかしそうに頬を染める。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
やっぱりどうしても苛めたくなる。


「何で?」
「…阿近さん見てると、その…美味そうに見えてきて…」
「へぇ」
「やってみたら少しは大人になれるかな、って…」
「ほぅ」
「だから、阿近さんの…俺に下さい」


ペコリと頭を下げる姿に思わずにんまりと笑顔を浮かべてしまう




「そんなにいうなら、くれてやるよ」
「ほんとっ?」
「そのかわり、覚悟しろよ?」
「…へ?」



俺の含み笑いに眉間を寄せる修兵を引き寄せ、ソファへ押し倒す。


「え?阿近さん?」
「欲しいって言った事、忘れんなよ?」
「あ、あれ?阿近さん、何か勘違い…」
「うるせぇ、黙ってろ」


慌てる修兵を黙らせる様に唇を塞ぐ。
突然の行為に拒む事すら出来ない修兵の口内をねっとりと犯す。


「…っ…んふ…っ」


逃げる舌を追い詰め、ゆっくりと絡ませ、愛を確かめる。


「……あこ、んさ…ん?」


解放した舌は名残惜しいかの様に糸を引き、潤んだ瞳は静かに、そして不安そうに俺を見つめる。


「欲しいんだろ?俺を」


ニヤリと口角を上げる俺に、修兵の顔色が変わるのがわかった。


「いや、あの…そーじゃなく、て俺が欲しいのはっ……んっ…」
「聞こえねぇな…欲しいのは?」


耳朶に優しく歯を立てると、艶やかな声が響く。
勿論、耳元が弱い事は知ってる。


「っ…んぁ……阿、近さ…の、た、」
「残念、時間切れ」


耳元で囁くと、擽ったいのか微かに声を漏らす。


「…っ…いじわ、る…」
「意地悪で結構」


恨めしそうに溢す色を帯びた唇を、もう一度深く塞いだ。












「…分かってたんでしょ?」
「何を?」


ソファの上でぐったりとした修兵は、未だに紅く染まる頬を弱々しく膨らます。


「俺が阿近さんの吸ってる煙草が欲しかった事」
「…さぁ、な」

「…分かってた癖に」


そっぽを向く修兵の顔を優しく引き戻し、唇が触れてしまいそうな距離で囁く。



「うまかったろ?」




もう一度、紅い顔を更に染めながら眉間を寄せる。



「意地悪。」






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