巷では、少し前に煙草の値上げやらなんやらで騒いでた奴らもいたが、俺には関係ない。
体に悪いから吸い過ぎには気をつけろと口煩い年下の恋人は現在外出中、つか寧ろニコチン切れよりそいつのせいで俺は苛々してんだよ。
夜中の1時になっても連絡いれねぇってどういうことだ。
ため息をつき、本日2箱目の煙草に手を伸ばすと、パタンと乾いた音が響く。
漸く帰ってきやがった。
「お前、今までどこに…修兵?」
こんな時間までどこほっついてやがったんだと文句の一つでも言ってやろうと、腰を上げ玄関に向かうと、扉の前で俯いたまま動こうとしない修兵の姿があった。
僅かに香るアルコールの臭いに思わず顔を顰める。酔ってんのか?
とりあえず部屋の中に入れようと修兵の腕を掴むと、それまで何の反応も示さなかった修兵の華奢な肩がビクリと揺れた。
「…ほんとにどうしたんだよ」
言ってくれなきゃわかんねぇだろと、俯く修兵の顔を覗き込む。
「…っ、お前」
切れ長の双方の眼に溢れんばかりの涙をためて、それでも零れ落ちないようにと唇を真一文字に結び必死に堪えているのが目に入り、思わずぎょっとしてしまう。