無双演義

□三顧の礼 〜下〜
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今度こそは、と意気込み新たに、もう見慣れてしまった庵にやって来た。
この空間は誰が入ってきても拒むことなく迎え入れ、血の、戦の匂いが全くない。
清浄な場所。
劉備はここに足を踏み入れる度に、正直心が痛んだ。平和に暮らしている夫婦を戦に引き入れようとしているのだから無理もない。彼らの命の保証もできない。しかし、ここはその優しい気持ちを押し殺し、自分に与えられた任務として遂行することを誓った。

「御免下さい。誰かいらっしゃいますか?」

足音が聞こえない。嫌な感じがしたが静かに、粗末と言っては失礼だろうか、古い戸がギシギシと軋む音をたて開いた。中からはお馴染みの顔がまた眉を下ている。

「あの………。今日ももしかして……。」

諦め口調で一応尋ねてみる。すると、今日はいい意味で期待を裏切られた。

「いえ、いらっしゃるのですが………。」

意地悪に言葉の先を濁らす月英は我慢出来ず、整った顔を子供のように綻ばせる。

「実は孔明様、今お昼寝中なんです。」

ものすごく拍子抜けだ。
三度目、ここに来るまでに複雑な気分を味わい、期待し、やって来たのに。しかしここで折れないのが劉備の良いところ。

「昼寝ならばいつか起きられるでしょう。外で待たせて頂きます。」

「どうぞ。起きられましたら、お呼びいたします。」

庵の横にぎっしりと積み上げられた薪に全体重を預け、腰を下ろした。
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