宝物

□やればできる
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捧げ物

















一回り以上年上の上司と恋仲となってから、結構な月日が経った。


幸せかといえば、そりゃもう幸せだ。なんせずっと片想いと思って諦めていたところに告白をされ、新たな関係を築けたのだから。




幸せじゃない筈がない。









が、最近、悩みが出来た。



それは、同じ男として、リードされっぱなしでいいのか、ということ。



確かに相手は自分より大人で、恋人も沢山ではなくても居たこともあるだろうから、リードの仕方にも慣れているのだろう。



それに比べ、自分は初めての事ばかりで常に受け身である。



別に得に問題がある訳ではないが、男としてどうなの?という疑問が、最近頭にこびりついて離れない。




なので、今日こそ、このスッキリしない気持ちにケリを着けるべく、新八は新たな決意を胸に秘めて万事屋に向かった。













〜美佳様に捧ぐ〜
[スッゴい甘々な銀新]











「おは、おはようございま〜す!!」



ガラガラといつものように、朝の挨拶をしながら万事屋の中に踏み入る。


の、予定が、今日からしようと決めたことに対して緊張したせいか、声が裏返ってしまった。



新八は恥ずかしげに俯くが、しん、と静まり返っている室内から誰も起きておらず、自分の失態もバレていないことが分かると、安堵の溜息を吐く。



そして静かに玄関の戸を閉めると、真っ直ぐ和室の方へ足を向けた。



普段なら、台所に行ってある程度朝食の準備をしてから、まず寝起きの良い神楽を起こしに行き、その次に和室で眠る銀時を起こす。


だが、新八は今日は真っ先に銀時の下へ向かった。



頭の中が、今朝決意したことで一杯だったからだ。




和室の前に立つと、新八は閉じられた襖を睨みつけた。



この襖の向こうには、あるゆる大人の手管で自分を翻弄する男が爆睡している。



自分だって、振り回されてばかりでは、やられてばかりではないんだと、今日から思い知らせてやるのだ。



自分も、恋人をリードすることが出来る、立派な男なのだ、と。



「やれば出来る、僕はやれば出来るんだ…!」


呪文のように、新八は「やれる、出来る」とブツブツ呟くと、意を決したように襖を開けた。



そして案の定、眠りこけて大の字になっている銀時の姿を確認すると、足早に傍に寄り、ゆっくりとひざまずく。



一体どんな夢を見ているのやら、幸せそうな顔して眠る銀時を見て、新八はふ、と顔を綻ばせた。



成人した男性に思う感情ではないが、あどけなく、無防備な寝顔が少し可愛く見えたのだ。



が、視線を少し下にずらせば、可愛さとは縁遠い逞しい胸板が開けた衿元から覗いている。


いつも抱きしめられる度に頬に当たる、厚い胸板を見て、新八は些か頬を染め、銀時から離れようとした。


が、ここで負けてはいけない。胸板がなんだというのだ。自分だって男なんだから、同じ胸板があるじゃないか(厚みは全然違うが)。



弱気を振り払うように顔を横に振り、新八はおずおずともう一度銀時の傍に腰を下ろす。








そして、銀時の顔の横に両手をつけ、全く起きる気配がないことを確認すると、新八は銀時の唇に、自分のそれを近付けた。
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