Short Novel
□その日のうちに体払い
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ザワザワザワ....
夜の渋谷。
派手な風貌の若者や、疲れきったサラリーマンで溢れかえっている。
ここは眠らない街...。
俺もそんな人々の1人だ。
たくさんの人に混じって、フラフラと足を進めていた。
フッと、ショーウィンドウに飾ってあるiPodに目が止まる。
岳「そういえばiPod、壊しちまったんだっけ...。」
昨日の夜、自らの足の下で無残にもひび割れたiPodを思い出した。
まぁ...別になかったらなかったで、携帯で音楽を聴けばいいだけだし、そこまで絶対買いたいと思っていた訳ではない。
だけど、ショーウィンドウの中でライトに照らされているそれを見ると無性に手に入れたくなった。
が、財布の中身を見て溜め息をつく。
岳「...1,114円。」
目の前にある新品のiPodには程遠い。
岳「(しょうがねえ...。)」
iPodから目を離すと、キョロキョロと辺りを見渡した。
フッと1人の男が目に止まる。
40代後半から50代半ば位のサラリーマンだ。
その男は時々、疲れた様な表情を浮かべながらゆっくりと歩いている。
岳「決ーめた...♪」
俺はペロリと唇を舐めると、その男に駆け寄り、そのまま勢いよく腕に抱き付いた。
男「ッ?!何だ君は?!?!」
男は心底驚いている様子だ。
まぁ当たり前か..。
俺はそんなことは気にも留めず、iPodに目を向けながら口を開いた。
岳「なぁ...俺、あのiPod欲しいんだけど...。」
軽く虚ろな目をしながら、甘える様に上目使いで見詰める。
小悪魔的な笑みも忘れずに。
これは身長の小さい俺なりに、自分の身長を生かした誘惑方法だ。
ちなみに自分であみ出した。