短編2

□レギュラスから手紙
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先輩、お久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。先輩のことですから、元気に過ごしていることだろうと思っています。というより、そうでなくては、困ります。ですが、学生時代の頃のように元気すぎるのは困ります。先輩、今ちょっと怒ったでしょう。かわいい後輩の生意気だと思って、見逃してください。
 さて、このような形で僕が手紙を出していることに、先輩はさぞ驚いていることと思います。それもそうですよね。なにせ、僕がホグワーツを卒業してから一度も連絡をとったことなんてなかったのですから。いきなりなぜ手紙を出したんだと言われれば、返答に困りますが、まあ、最後までこの長い文章を読んでやってください。つまり、ここでその理由を書いてしまうと、ネタバレになってしまうんですよ。楽しみは最後ということで、少しだけ。お付き合いください。
 まず最初に、なかなか言う機会がなかったことなんですが、先輩には本当にお世話になりました。勘違いされると困るので言っておきますと、僕のことではありません。どっちかというと、僕はレポートを手伝ったりなど、先輩のお世話をしていた側ですから、そこは勘違いしないでください。絶対に。先輩にお世話になったのは、僕の兄の方で、あのろくでなしと一緒にいてくださったこと、本当に感謝しています。あの兄が、スリザリンであった先輩と仲が良いなんて最初は本当に驚きました。先輩は本当に、人の心の壁を壊すのがうまい方です。僕ら家族ではできなかったことを、先輩含め、ポッター先輩やルーピン先輩が兄の側にいてくれたからこそ、兄が憧れていたブラック家にはないものを、手に入れられたのだと思います。これはブラック家の次期当主としてではなく、兄の弟として。ずっと、お礼を言いたかったことです。お礼も言ってないだろう兄の分も含めて、本当にありがとうございました。
 ずっと言いたかったことも打ち明けられたことでだいぶ心がすっきりしたので、最近の近況なんかも書いてみようと思います。僕の近況なんて先輩には興味のないことかもしれませんが、先輩と会っていない長い間に、僕にもたくさんのことが起きたのです。
まず、さっきの話題の中でも少し触れたことですが、僕はブラック家の次期当主に正式に選ばれました。それに選ばれたということが、ただそれだけですむことではないということは、先輩ももちろんご存じのことかと思います。しかし、鈍感な先輩のためにも直球で書きますと、僕は正式に死喰い人の仲間となったのです。まあ、驚く話でもないですよね。ただ、腕の印を直に見たら、さすがの先輩も目を見開くことと思います。一回くらい、騎士団としての先輩と会うことがあるかと思ったのですが、なかなかないものですね。でも、それで本当に安心しています。スリザリンで僕やマルフォイ先輩と仲の良かった先輩が騎士団にいるというのは、死喰い人からみれば全くおもしろいことではありません。わかっていることとは思いますが、くれぐれも兄さんたちの側を、離れないでください。そんなこと、死喰い人である僕がいうのもおかしな話ですが。矛盾は百も承知ですが、それを心に常においてくださいね。
とまあ、近況報告なんて言いながらも、ざっくりまとめてしまえばこんなものなのです。本当はもっとたくさんのことはありましたが、手紙にしてしまえば、それはもう学生時代の魔法薬学のレポートのごとく長いものとなってしまうので、割愛します。ここまでぐだぐだ話を伸ばしてみましたが、やっぱり手紙ではたりませんね。ここに書けなかった分は、また次に、先輩とお会いできたらそのときに。


魔法史の授業で、授業が始まってから居眠りまで最短の記録を持っている先輩のことです。文字を読むのも疲れてきた頃かと思いますので、そろそろ羽ペンを置こうかと思います。でも、あと少しだけ。
なんやかんや言いましたが、僕は学生時代が一番楽しかったと思います。何度目を閉じても思い浮かぶのは、先輩と一緒に過ごした日々のことです。先ほど僕は兄の件で感謝しているということを述べましたが、僕自身が先輩に持った感情は、学生時代から今もずっと、感謝ではありませんでした。本当は、それだけを伝えたくて先輩に手紙を出したのです。欲を言えば顔を見て言いたかったのですが、僕も先輩も忙しい身なので、なかなか会えそうにありませんので手紙にて。僕は先輩のことが好きです。ここまで言わせておいて、意味をはき違えないでくださいね。愛をこめて。


あなたが幸せであることを心から祈っています


レギュラス・ブラック



P.S 返事はいりません










学生時代にレギュラスから聞いていたクリーチャーと会ったのは、今日が初めてだった。クリーチャーは想像通りレギュラスだけに忠実で、彼からのお願いを守っていた。そのお願いにあっただろう通り、この手紙の内容も知らないようで、中身が気になってしかたないのかしきりにこちらをチラチラと見ている。
しかし、ここに記されていたのはクリーチャーの考えているであろう彼の遺書ではなく、ただの私への手紙だ。辛いとか、悩みなど一切ない。私を心配してくれた者からの、愛の手紙だった。


「……わたしのことばっかりだ」


どんな気持ちで書いたのだろう。彼のいない今はわからないけれど、なんとなく。彼が穏やかに微笑みながらこの手紙を書く姿が、頭に浮かぶ。


「、ずるい……ずるいよ、レギュラス……っ」



こんなの、死ぬ前に書く手紙じゃない。


苦しいっていってよ
辛かったっていってよ
優しい言葉なんていわないで
わたしにもいわせてよ





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