逆時計編

□七つの木の実を喰い潰し
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(※名前変換がまだ無いのでご注意ください!!)











平穏


日常


何気ない、日々



気付いていた


あの時から


私たちは、気付いていたんだ







(七つの木の実を喰い潰し)







地下道家


庭付き一戸建てのごく一般的な住宅


同じような背の住宅が並ぶ中に


その家はあった





赤い屋根の家

簡単な作りの黒い鉄製の門

玄関までは茶色のタイル

赤いペンキで塗られたポスト






表札には《地下道》の文字

真夜中の道には街灯が点き、並んでいて

家の前をぼんやりと照らしていた






静かに風が流れる音がする

庭の草木がざわざわと騒がしい

けれど静かな夜




家に灯りはついていなかった

窓はカーテンも閉められていない

しかし電気も消えているので、室内は暗く、様子は分からない



普段兄の代わりに家の留守を守る少女がいないのだから、それは仕方のないことだが






――ジャリッ




足音が響く




「………」



灯りの無い家の前でその人物は立ち止まった



「ち・か・み・ち」



表札を読みあげる




「地下道、ふうん…――ひひひっ 地下道?地下道かぁーっ」




にいい――と


唇が弧を描き


白い歯が不気味に顔を出した



「地下道、おりちゃん、おりちゃん、おり、ひははっ おり、ちゃん――あははっ あははっ ひはは…





…――うっぜぇー…」





――ガシャンッ!!





笑っていたかと思うと


次の瞬間表情は一変


それと同時に表札は粉々に砕けていた




長い髪がなびく


毛先だけが金の、黒いウェーブのかかった長髪


前髪の隙間からは赤い瞳


地面に落ちた残骸を冷たく眺めていた





「…早くしろよ、おりちゃん…――俺はもーアンタを迎えに行く用意は、出来てんだからさぁ」



ぽつりとつぶやく



「《全てを忘れた世界》」



ぽつり



「《先の無い――流血の道》」



ぽつり



「《暴力は牙》


《蒼さを知らない空》


《積木は一つ》


《名を焼き》


《永遠を笑い》


《物語は――…




おいおい――あんまし俺を――を待たせてくれるなよな、そんなだから――…」


「こんばんは、こんな時間に女性が1人でいるのは物騒ですよ」


「…こういうのが、出て来やがる」



顔を上げる


背後から男の声がした


彼女の唇が、再び歪む


獣のように目を見開き、犬歯をむき出しにして、笑った



「こういう夜は、男も女もありゃしねえよ」


「それは怖い」


「ああ、怖いぜ、なにが出るかわからねえからなぁ」


「たとえばなにが出ると?」


「そーうだなーぁ」



くるり


間延びした声を発しながら


ゆっくりと振り返る


赤い目が、嬉しそうに暗く光った


目の前の男の顔を捉え


ああ、こいつは知らない顔だ


確認をする


それから男の手にしている物を見る




「………」


「おいおいおいおーい」


「………」


「うへえ、なにそれ、ルガー…?この距離で?こんな場所で?サイレンサーとかつかわねーの?正気?気は確かか?お前それがどんだけうるせえか知ってんの?」


「零崎一賊の者だな」




男は聞こえていないような顔で、聞いた


二丁の拳銃を両手にそれぞれ構えており


銃の柄の部分から腰には、チェーンが固定されていた




「それ、使いにくそうだな」



女が笑う



「零崎一賊の者だな」



男は笑わなかった


初めの口調よりも幾分か声のトーンは落ちていた





「へ?ゼロザキ?なんすかそれ?もしかして人違――」


「とは、言わせない」


「言わねえよ――ぶあーか」


「薄汚い鬼女め」


「お褒めに預かり光栄の至り――はははっ」





ぐにゃりと首を曲げて女が笑った




まるでピエロの様な


貼り付けたような、作りものの顔で、笑った








それが、合図だった







男は拳銃を構え


女は走り出した





(――タン…ッターン…――)




それからしばらくして


2発の銃声が静かな夜の町に響いた




「ばっかでーぇ」




真夜中の道を



てくてくと、女が歩を進めていた


家のある場所からはもう、ずいぶんと離れてしまっていた




――ジャラ…ジャララ…




両手には見覚えのある、拳銃が二丁



長いチェーンは先が強引に引きちぎられていて、なにやらドロドロとしたもので汚れていた



「まったくまったく、有名人ってのも大変だぜ」




――ジャラ…ッ




「なーにが「零崎一賊の者」だーっつの」




――ジャラララ…ッ!!



チェーンの汚れが地面に付着していくが、気にせず進む




「俺たちに銃は効かねえよ、もーちょい勉強してから来いよなー、ひひひ」




そう言って女は



自分の腕に銃口を向け




――ゴリッ




「ほい」




――タンッ!!



それはなんの躊躇もない行動だった


迷うことなく女は引き金を引いた




――ジャララララ!!ガチャンッ!!――ガチャンッ!!



両手に持っていたルガーが落ちる





けれど





「ほら死なない」



腕には指が入ってしまうサイズの穴





――ボタボタボタ!!!



重力に従って腕から大量の血液があふれ落ちる



落ちて


地面を這うように広がっていく





「死なないんだぁー」




赤い目を大きく見開き


真っ直ぐな視線は刺すように


けれど


ここにはいない、誰かに向けての


独り言



それは自分に宛てたものかもしてない


それともあの少女にだろうか


会ったこともない、少女に――…






「………」






――物語で言えば


それは後に《黒耀編》と呼ばれる章


並盛中学の生徒が、次々に襲われる


そんな事件




――日常で言うならば


それは後に《逆時計編》と読まれる章


1人の少女が姿を消した


そんな事故






これはそれ等が起こった


その夜の出来事




マフィアの10代目候補も


世界最強のヒットマンも


行方不明の少女も


誰も知らない話




そして次の日の朝から


また物語は加速を始めるのだ


時計の針が


また1つ


進む音がした








(消失日和)



(そろそろ始めるよ)


(もう待っててやる時間は無いんだから)



*
 

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