main

□一歩踏み出す特別な日
2ページ/5ページ

「はぁ…」
「阿部ー。目の前で大きなため息つかないでくれる。」
「うっせえ水谷。こっちはそれどころじゃない」
休み時間、分かりやすくへこんでいる俺のところにわざわざ来て、わざわざ文句を言う水谷にも今は本気で怒る気力がない。
「そんな言い方ってないじゃん。何か悩みがあるなら俺らにも相談してよお」
どうやら水谷も水谷なりに俺のことを心配しているらしく、その優しさにちょっと見直した俺は、おおざっぱな経緯を語った。

「…三橋にひでえこと言っちまったんだよ…そんであいつ、いつも俺が怒鳴ると涙目にって謝るだけなのに、初めて反論してきてさ。」
ええっ!?あの三橋ちゃんが!?と大げさに驚く水谷を少しウザく思いながらも、俺は気にせず続けた・

「まぁ、俺もホントにひどいこと言った自覚はあるんだよ。でも、なんていうかそういう反応されると思わなくて…。どうすりゃいいんだ俺」

うんうん、と聞いていた水谷が空気を読まず地雷を踏んでくる。
「で、ひどいってどんな?」
「…それは言えない。」
ガクッと机に突っ伏しながら俺はこたえた。

そこにいつの間にかいた花井も話に加わってくる。
「もしかしてお前、、三橋の感情逆なでするようなこと言ったんじゃないの?三橋はああ見えてちゃんと自分の意思はしっかりと一本軸で持ってるから、それがよっぽど意に沿わないことだったんだろうな。」

花井の言うことがいまいちわからないが、ぼかしながらでもある程度どんなことを言ったのかわかってるような物言いに少しドキっとする。

「そうそう、阿部は素直になったほうがいいよ。お互いものすごい好き好きオーラ出してるのに付き合ってないとかさ。俺最初びっくりしちゃったよ。」
「…」
他人から見る俺たちを聞かされ、面食らって言葉がでない。
そんな風にみられてたのか俺ら…。

「わかってないならいうけど、今の状態で恋人同士じゃないなんて絶対阿部に原因があると思う。」
いつになく真面目な顔で水谷が言う。
その言葉に後押しされるように俺は決断した。
「一度ちゃんと、三橋と話してみる。めったにない正論サンキューな水谷。」

「!?あっ、あ、阿部が俺にお礼いったあああああああああ!今日槍が降るよ槍!!」
叫ぶ水谷を脳内シャットアウトし俺は考えをまとめる。
話すといっても、今更きっかけがつかめるかどうかわからない。
ふと壁に掛けられていたカレンダーを見ると、いつの間にか三橋の誕生日が目前に迫っていることに気付いた。



昼休みのまったりとした空気がクラスに流れる。
三橋の誕生日前日、俺は一大決心が揺らがないよう深呼吸して誕生日プランの第一段階を遂行しようとしていた。
「おい」
教室から出てきた三橋に声をかける。
「…なぁに?」
たっぷりの間の後に、ものすごくうっとうしそうな顔で睨まれたが
ひとまず立ち止まって返事をしてくれたことに安堵する。

「今日、放課後一緒に帰るから駐輪場で待ってろ!」
「えっ!?」
驚いた三橋の顔を背に俺は走り去る。顔が熱い。

「ちょっ、オレ、まだ何も言ってな…」
三橋の声が聞こえた気がした、俺は気にせずその場を後にした。

あとは三橋が来ることを願って待つしかない。
俺は一世一代の賭けに出たのだった。


放課後、思った以上にミーティングに時間がかかってしまい急いで昇降口に向かう。
本当にちゃんと待っていてくれるだろうか?
今になって急に不安が押し寄せる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ