main

□苦いチョコと甘いモノ
3ページ/5ページ

最後の授業の鐘が鳴り、オレは急いで家に戻る準備をする。
「あれ?三橋部活行かないの?」
一緒に行こうとして声をかけてくれた田島君が質問する。
「えっと、ちょっと忘れ物しちゃって…」
「ふーん、それって放課後取りに行かなきゃいけないもん…ググッ」
「ほら、田島早く行くぞ。」
深く質問しようとした田島君の首筋を掴んで、泉君が連れて行こうとする。
「じゃあな、三橋頑張れよ。」
何でも知っているような口調で、泉君はニヤリとしながら田島君を引きずって教室を出て行ってしまった。

オレは急いで自転車置き場に急ぐ。そこに近づいたとき、ここに居るはずのない人影を見て俺は驚いてしまった。
「あ、阿部、くん!?」
「…おう。」
一応挨拶は返してくれるけど、オレでもはっきり分かるほど機嫌の悪い空気を全身にまとっていた。
「最近、オレのことかなり避けてくれたよなぁ。ここ一週間、帰りもお前先帰っちゃってたし…。今日なんか部活のときも休み時間のときもオレと全然目ぇ合わせようとしねぇし。」
「あの、えっと…」
いきなりのキツい言葉にオレはしどろもどろになって何も言えなくなってしまう。
「俺本当悲しかったんだけど。…なぁ、最近なんで避けるんだよ…嫌いになった?」
最初は声を張り上げていた阿部くんも、だんだんとトゲをなくしていき、最後にはとても心配そうな声色に変わっていた。
「お…オレ…ふっ、」
思わず涙が溢れてくる。ちゃんと謝りたいのに嗚咽が漏れて言葉にできない。
そんなオレの様子に阿部くんがぎょっとして、
「お、おい。泣くなよ。俺もゴメン、言い過ぎた。」
ぎゅっと抱きしめてくれた阿部くんの腕の中はとても温かかった。
「ううん。違う、の。オレが全部、悪く、て…」
この一週間早く帰っていたのは、バレンタイのケーキの練習をしていたこと、阿部くんのために作っていて夜更かしして朝も阿部くんと行けなかったこと、今日、バレンタインのケーキを忘れてしまったこと。全てを正直に話した。
すると阿部くんが途端に真っ赤になる。
「な…、バレンタイン!?チョコ??じゃあずっとオレを避けてたのも、今日なんか口もろくに聞いてくれなかったのも全部そのせいかよ…」
阿部くんがさっきよりももっと強くぎゅっとしてくれる。
「はぁ…本当心配した。でも嫌われたんじゃなかったんだな…」
「あの、ね。オレ、阿部くんが 世界で一番好き、だよ。」
オレも阿部くんをぎゅっと抱き返し、精一杯の思いを伝える。
すると阿部くんが顔を上げ、オレの瞳を真っ直ぐに見つめた。そのまま目を閉じ、触れるだけのキスをする。

「じゃ、オレ、今すぐケーキ取ってくる!」
オレが急いで自転車に飛び乗ろうとすると、
「待った。このまま一緒に行ってもいいか?その方が早いし。」
阿部くんのいきなりの提案にオレはちょっとびっくりする。
「えっ、でも、阿部く…部活は?」
「あー、それなら大丈夫。なんか篠岡がモモカンに話付けたらしくて、今日はそのまま帰るように言われたから。…今思えばこういうことだったんだな…」
しのーかさん、まさかオレのために…。明日朝イチでお礼しに行こう。

オレの自転車はそのまま駐輪場に置いて、阿部くんの自転車の荷台に乗せてもらう。
阿部くんは、「明日の朝も迎えに来るから今日は置いてってもいいだろ。」とぶっきらぼうに、でも耳を真っ赤にしながら言っていた。そんな阿部くんが何だかとっても可愛くて、気付かれないように「えへへ…」と笑いながら自転車をこいでいる阿部くんにぎゅっと抱きついた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ