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□苦いチョコと甘いモノ
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気持ちいい光がカーテンから漏れてくる。まだちょっと寝てたい…もう少しだけ…
「…ン!レン!!起きなさいって!」
お母さんの声がクリアに聞こえ、オレはハッと目が覚める。時間を見ると、もう朝練は遅刻の時間帯だった。
「はうう。何で、もっと早く…起こしてくれなかったのぉ!」
涙目でお母さんに訴えるけど、お決まりの文句で返されて何も言い返せなくなる。
自分の出せる全速力でグラウンドに向かったけれど、やっぱりみんなもう来てる。早く準備しないと!!と焦りながら更衣室で着替えをしていると、オレは重要なものを忘れたことに気がついた。
そう、せっかく作ったガトーショコラを家に忘れてしまったのだ。
(ど、どうしよう…今から家に帰るわけにも行かないし…)
散々迷った挙句、結局オレは朝練を最優先した。
「はよ、三橋」
オレに真っ先に気がついた阿部くんが声をかけてくれる。
「お、はよ…」
オレは気まずさから、思わず顔を逸らしてしまう。
「?」
どうしたんだ?って阿部くんから声かけられる前に、オレは自分の仕事にそそくさと逃げてしまった。
その後も、阿部くんに合わせる顔がなくてどうしても顔を合わせられなかった。
いつもは移動教室のときにクラスの前を通ってちょっと会話したり、忘れた教科書を借りに行ったり、阿部くんと一緒の時間を作っていたけど、今日はできない。
とりあえず、置いてきてしまったケーキをいつ渡すか。そればっかり考えて午前中の授業が過ぎてしまった。
お昼ごはんの時間も、いつもなら阿部くんと一緒に食べてるんだけど、やっぱり適当な理由をつけて断ってしまった。
この時間を使って家に戻ろうか、でも行って帰ってこれるだけの時間がない…。
こうなったらこうするしかない、と、オレは思い切ってしのーかさんにお願いすることにした。
阿部くんに合わないよう、メールでしのーかさんを階段の踊り場に呼び出す。
「あの、ね。今日、阿部くんに渡すチョコ、忘れちゃって…」
「あ〜。そっか。それでレンちゃん、今日なんかそわそわしてたんだね。」
「それで、あの、部活の時間 ちょっと抜け出して、取りに行ってもいいかなぁ?しのーかさんに、すごく負担にかけちゃう、から、本当は良くないんだけど…」
「もちろん!こっちは任せといて。せっかくレンちゃんが作ったんだし、取りに行ってあげてね。」
「うぅ、ありがとぉ」
嫌な顔ひとつせず快諾されて、オレは思わず涙目になる。
「じゃ、オレ、戻る、ね」
「うん。頑張って!」
このときオレは気付いていなかった。ほっと一安心してパタパタと戻るオレを見送るしのーかさんの顔に不適な笑みが浮かんでいたのを…。
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