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□ドジナースにお願い!
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※以前のナースものとは繋がっていません



迂闊だった。
意識を取り戻した時、クリーム色の天井と青いカーテン、つながれている管と固定された手足を見て、自分がどうなっているのかを痛いほど実感し、俺はため息をつく。
この場合、出勤3日目で早くも行方をくらました新人のバイト君が悪いのか、そのツケを俺に回してきた店長が悪いのか、信号無視で俺に思いっきり突っ込んできたドライバーが悪いのか、正直俺にはどれも諸悪の根源に思えるが、とにかく今ははっきりした自分の身体の状態を把握するのが先だ。
手元にあったナースコールを押そうか迷っていると、すぐに俺の点滴を変えに看護師が来た。
看護師は俺の顔をみるなり驚いた様子で、「阿部さん、気付かれたんですね!よっ、良かったぁ…。」と言いながらバタバタと騒がしく慌てた。
そいつは俺が声をかける間もなく「すぐ先生、呼びます ね。」とまた元の廊下を煩く戻ろうとする。
俺は慌てて看護師を呼び止めた。
「あ、あのさ、ちょっと待って。俺、事故…ったんだよな?今、固定されてるけどさ、手とか足、どういう状況なの?また動かせんの?」
一番の心配どころをずばり質問する。やっぱり、今後からだのどっかが動けなくなったりするのはできれば避けたい。
看護師はその不安を読み取ったのか、
「はい。大丈夫、ですよ。打撲や骨折だけで、致命傷は免れました。」とニッコリ笑顔で答えてくれた。その言葉以上に、看護師の笑顔にホッとしたのは気のせいだろう。
「……良かった。」
「今、先生に来てもらいます、ね。そこで、詳しい説明もしてくれると思います、ので。」
そんな声を聞きながら、俺は安堵感に再び睡眠へと誘われた。

意識を取り戻して3日は、体中痛かったり、寝つきが悪くなったりと環境の変化についていけなかったが、それを過ぎるとだんだんとその変化にも対応していくようになった。
それと同時に新たな問題も生じてきた。入院生活にだいぶ慣れた俺は、自分で満足に身体を動かせないこの状態にイラついていたのだ。
他人の手を借りなきゃいけないことが結構なストレスになるって入院して初めて分かった。
それだけならまだしも、イライラ要因はまだ他にもあった。
俺の担当になった看護師、三橋廉は驚くほど不器用だったのだ。注射を打とうとすれば何回もやり直しされるし、身体を移動させるときだって支えが不安定で身を任せるこっちが怖くなる。ひどい時には間違えて他の人の点滴まで付けられそうになった。
単なるお茶目ならまだしも自分の命に関わることをやられたらたまったもんじゃない。せっかく交通事故から生還したのにこんなところでまた命の危険にさらされたらたまんない。
そんなもどかしさがあいまって、俺は身体が動かせない状況にかなり苛立ちがましていた。

それからまた数日が立つ。
俺には一つの問題が浮上していた。入院してから1度も抜いてないことで、いい加減溜まるものが溜まってきたのだ。
怪我をしてても、身体の機能は健常な成人男性と一緒だということを身をもって実感する。
そろそろ本格的に耐えられなくなってきた俺は、日ごろの鬱憤が溜まっていたせいもあって、あのドジナースに標的を定める。
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