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□三橋ナースの憂鬱
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三橋廉は困っていた。
それは、最近三橋の働いている整形外科で、
たびたびセクハラまがいの行為をしてくる若い男性患者が入院してきたからである。
元々交通事故や仕事上の怪我で、比較的若い男性も多いこの病棟ではあまり珍しいことではなかった。

しかし、三橋は今日も仕事のためその患者のところへ出向いていった。
「し…失礼します。検温の、時間なので…体温図ってください、ねー。」
「おっ!今日は三橋さんなんだー!やったぁ。俺三橋さん優しいからスキ〜」
その患者は今日もなれなれしく腕を触ってくる。
それだけでは飽き足らず、点滴の量を確認している最中にも尻を触ってきたのだった。
三橋は苦笑しながら、
「そんなことしちゃ、ダメです、よー。」と返すだけであった。
その態度に患者は
「三橋さんってさぁ、なんかこう、意地悪したくなってくるんだよね。反応がかわいいっていうか。このままじゃおさわりだけじゃ収まんないかも。ねぇ、看護師さんってシモも世話もしてくれるんでしょ?」
と笑いながらとんでもないことを言ってのける。
「い、いえ。そういうのは、自分で出来る人には極力自分でやってもらって、ます。」
半泣き状態でそう告げると、
「俺、今自分で出来ないんですけどー。」と不服そうな声が聞こえてきた。
負けじと三橋も「伊藤さんは、足の骨折ですから、自分でできますよね?」と返した。
するとチッっと舌打ちし、
「そうですかぁ。溜まったら俺何しちゃうかわかんないけど、しょうがないですよね?」
と不吉な言葉を残し、それっきり目をつぶったまま何も話すことはなかった。

三橋は一抹の不安を抱えたまま、その病室を後にしたのだった。
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