novel
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目が覚めたら昨日の記憶も…すべての名前も忘れてしまえたらよかったのに…
自分の名前もいままでしてきたことも、起きたらすべてがゼロだったら…どうだろう…
そんなことを思いながら時計があるくせに、携帯を開き時刻を認識する。
いつものことだが部屋はガラーンとしていて、部屋からでても人気がなく寂しい。
家の一番涼しいであろう台所には、無造作に置かれた3000円と
“遅くなるから何か買って食べてね”
の文字が乗った小さな紙。
それを横目で見送り、冷蔵庫からペットボトルの水を取り首に当て、その冷たさを直に感じた。
だいたいはそうだ…いや、今まで早く帰ってきた例がない。こんな置き手紙がなくとも両親の帰りが遅くなるのは、まだ小学生の低学年のときから知らざるを得なかった。
仕事の忙しさを知ってか知らずか、チビ俺は一度も寂しいだとか早く帰ってこいと我が儘を言ったことがない。…らしい。
昔を不意に振り返ると案外呆気ないものだ。まだ15年そこそこしか生きていなくとも、この過去は呆気なさ過ぎる。つまるもつまらないも有りはしなかった。