その他
□流れゆく時の中で
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ーーーーそれから、アヤナミはテイトに色々と聞き出したがどうやらテイトは名前以外の記憶がないらしい。
「アヤーー!!」
部屋に入れば、テイトはアヤナミに向かって突進する勢いでやってくるのでアヤナミはテイトがひっくり返らないよう腰をかがめて抱きしめてやる。
「テイト。いい子にしていたか?」
「うんっ。僕、いい子にしてたよ!」
にこにこと笑顔を浮かべているテイトは、アヤナミに頭を撫でて貰えるのを待っていた。
「そうか。……テイト、お前は…」
アヤナミがテイトの頭を撫でてやれば、テイトは気持ち良さそうに目を閉じている。
アヤナミは、喉まででかかった言葉を飲み込む。
……テイト、お前はいつか思い出してしまうのだろうか?
千年前の出来事を……
「綺麗な花。」
花びらの絨毯の上を歩くイブ。時折、屈んでは花を摘み取り匂いをかいだりしている。その姿は、とても幼く見えた。
「見て!」
イブが差し出したのは摘み取った花で作った花の冠…のようだった。
ようだったと言うのは、コレを花の冠だと言うのは些か問題があるような気がしたからだ。
「ちょっとぉ〜、コレを見て何か言わない?」
ただ、差し出されたものをじっと見ている自分に痺れを切らしたイブは頬を膨らませて言った。
「……それは、花の冠。なのか?」
そう言えば、イブは当然といった顔でこう言った。
「当たり前じゃない!花の冠以外の何に見えるのよ。貴方やっぱり変わっているわね。」
くすくすと笑う彼女の姿をみて、常に無表情だと言われ続けている顔がほんの少しだけ緩む。
はたからみれば、わからないくらいの小さな小さなものだったが…
遠い昔の記憶は、今もアヤナミの中で色あせることなく存在し続けている。
ーーーーー
「はいっ。」
といって、アヤナミに差し出されたのは先ほど夢に見たものと同じ花の冠だった。夢の中と同じで冠とは呼べないようなものだったが、差し出したテイトはニコニコと笑いアヤナミが受け取るのを待っている。
アヤナミは花の冠を受け取ると、ぽふんとテイトの頭に載せた。
「お前が身につける方が花も喜ぶだろう。」
アヤナミがそう言えば、テイトは首を振った。
「そんなことない!!アヤがつけてもお花は喜ぶもん!……それに……」
「それに?」
アヤナミが先を促せばテイトは、急に小さな声で話し出した。
「…夢の中でアヤは一人でずっと寂しそうで悲しかった。……アヤはお花を見ると少しだけ笑ってた。だから、好きでしょお花?」
アヤナミが再び受け取るのをテイトは静かに待った。アヤナミはテイトの手に載る花の冠を手にすると、静かに、しかしはっきりと言った。
「お前は、ずっと私の側にいるのか?」
テイトは一瞬きょとんとしたが、すぐににっこりと笑った。
「ずっと一緒にいるよ。だって、大好きだもん。」
アヤナミは千年の間、ずっと空っぽだった心が満たされていくのを感じた。