カレーライス
ふと読んでいる本から台所に目をやると、夕食を準備する直の後ろ姿が見えた。
淡い桃色のエプロンを身に付けたその後ろ姿は、昔、同じように料理をする母を秋山に思い出させた。
何故か急に懐かしくなって秋山は本を閉じた。
「今日の晩飯、何?」
「カレーです!」
「へえ。そういえば久しぶりだな」
「はい。時々すっごく食べたくなりますよね!」
見れば台所にはカレーの材料になる人参、じゃがいも、玉ネギなどがごろごろ転がっていた。
その横で、直は鍋の用意をしている。
「手伝うよ。何すればいい?」
「あ、ありがとうございます!えっとですね…じゃあ人参を刻んで下さい」
「分かった」
包丁を握るのがかなり久しぶりというのもあって少々手元に心配はある。小学生の時はよく母を手伝ったものだが。
「出来たよ。次は?」
「はい。えっと、玉ネギをお願いします」
「ん」
玉ネギを手に取り皮を剥いていく。端の方にまだ残っている皮を見つけてそれも剥く。
「…」
さっきより一回り小さくなってしまった気がする。
ちらりと直の方を見ると、じゃがいもを刻んでいた。
「なあ」
「はい」
「玉ネギ、やってくれないか。じゃがいもやるから」
「あ、はい」
立ち位置を入れ替わって作業し始めると、直が笑いながら言った。
「秋山さん、玉ネギ小さくなってません?」
「…気のせいだ」
ふふ、と直が笑った。
「小学生の頃に、母さんの夕食の手伝いをしてた時」
「?はい」
急に話し出した秋山の言葉に、直が頷く。
「その時もカレーで、玉ネギの皮をむいている内に、どこまでが皮でどこまでが実なのか分からなくなって」
直は作業を止めて聞いた。
「皮だ皮だと思って、どんどん剥いてったら結局実の部分が無くなって、玉ネギ自体消失させてしまったんだ」
「ふふ…っ。それで、お母さんはどんな反応をされたんですか?」
「大笑いされた」
「ふふふ…。秋山さん、なんだか可愛いです」
10分後、その部屋にはカレーの良いにおいが漂った。
「おいしそうですね!」
「ああ」
「「いただきます」」
「カレーライス」(なんで笑ってるんだ?)(さっきの秋山さんの話を思い出してました)(…)