present&request
□It is wrapped in a rose scent.
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ホストという職業は常々面倒くさい事ばかりだと思う。
将来小さいながらも自身の手掛ける蕎麦の店を持つという目標を持った神田に、友人が実入りが良いからと誘われたのがホストになった切っ掛けだった。
「ああ。じゃあそこでいい。待ってる」
まるで箇条書きのような返事を電話の相手へと投げ、神田は手にした携帯電話をジャケットの内ポケットへと入れ、そっと嘆息した。
今日の同伴者は神田を贔屓にしてくれている女性だった。相手の顔を覚えるのが苦手な神田はその雰囲気だけを頭に思い描く。
『確か花が好きだったな…何か贈って機嫌を取っとけば十分だろ』
どうせ向こうも此方の面の皮一枚しか見ていないのだからお互い様だ。
男にしては整った日本人形を思わせる凛とした顔立ち。髪と瞳は夜の闇より尚深い漆黒。スラリとした長身に均整の取れたスタイルは擦れ違う者を悉く魅了していく。
容姿さえ良ければいいだなんて甘い業界ではない事は、入って直ぐに思い知った。ホストの給料は歩合制。固定客が付かなければ当然その月の給料は散々たる物だ。
元来人と馴れ合う事を苦手とする神田がそれをもかなぐり捨てて贔屓にしてくれる客には媚びを売り、甘い言葉を囁き、遊びに誘われれば乗じてきたその理由は、全てが目標額達成の為にある事を知るのはごく僅かな人間だけ。
本来の神田の性格を知る者からすればかなりの無理をしている事は日を見るよりも明らかだったが、それだけ彼の意気込みが強いものだと解るだけに誰も止めようとはしなかった。
本日の相手の為に花を見繕おうと花屋へと向かう。
待ち合わせ場所の近所にあるその花屋は様々なアレンジメントに器用に応じてくれる事で有名な所で、自身が勤める店もよく利用している所だ。
神田はその花屋の軒先にある数種類の花へと目を向け、注文する為に中へとその足を踏み入れる。
「おい、いねぇか?」
「あ、はーい!」
店の中で声を掛ければ奥からパタパタと足音がして少女のような顔立ちをした店員が現れる。
普段見かける店員とは違う為、神田は怪訝な表情を浮かべその目を眇めて少女を見た。
髪は見事な白銀。
その瞳は少し髪色を燻らせた銀灰色。肌は透き通るように白く、全体的に華奢だ。
「いつもの店員はいないのか?」
「えっ?あ…お母さんなら今買い物に出ているんですけど…」
どうやらいつもの店員はこの少女の母親らしい。という事は見事なフラワーアレンジメントの腕を見せているのはその人物という事か。
母親も綺麗な女性の部類に入るが、娘であるこの少女もまた愛らしい。この少女が自身の恋人であればどんなに良いだろう…。
『ハッ…何考えてんだ俺はっ!』
瞬時に浮かんだ有り得ない、そしてどうしてそんな事を考えたのだろうかと軽く頭を振り、神田は少女へと声を掛けた。