N o v e l -long-
□ First Love -仮面の理由-
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俺は初めからナミさんに夢中だった。
太陽の光をそのまま吸収したような暖かな髪の色。それでいて鮮やかで、華やか。
まるで彼女の人柄をそのまま表しているようだ。
くるくると変わる表情に惹き付けられた。
嵐の中でも冷静に判断を下す凛とした彼女に見惚れた。
強い信念。夢に向かう真っ直ぐな姿勢の彼女を綺麗だと思った。
――どこか、母親に似ていた。
俺の母親は、一言で言えば最低な女だった。
酒に溺れ、男に溺れ、子供の俺の世話などしない。
そんな女とナミさんを重ねる事自体が変なのだが、髪の色が似ていたためにどうしても重ねてしまう。
飯だけは与えてくれたが、愛情は注がれなかった。
泣けば叩かれ、罵られ、存在価値を否定される日々。
傷も耐えなかったし、辛くない日はなかった。
それでもガキの俺には母親しか頼る人がいず、その人としか交流がなかった。
愛されたくて、愛されたくて、振り向いてほしくて。
必死に喋りかけるのも虚しく、無視されるだけだった。
それでも母親は容姿だけは華やかで、とても綺麗な人だった。
鮮やかな、オレンジ色の艶やかな髪を眺めては、自分の色素が薄い髪を呪った。
母親と同じになりたかった。
母親が大好きだった。
男に振られ傷心の時だけ、私にはお前だけだよと愛された。
都合のいい偽りの愛の囁きも、子供の俺は素直に信じた。
その時ばかりはぶたない母親に、ありもしない愛を感じた。
そんな過去があるからか、女を、愛を信じられず今までの女関係はそれは曖昧なものだった。
性欲はあるからセックスはするが、相手の女が愛を囁いてきても俺は冷めたもので、到底信じる事はできなかった。
全く心に染みてこない。
それが…どうだ。
「サンジ君…好き」
一気に胸が高鳴った。心臓がうるせぇくれぇにドクドク脈打つ。
初めはナミさんの悪ふざけかと思い込もうとした。
でも、目の前の彼女の顔は真剣そのもので…
今までどんなに愛を囁かれても揺らぎもしなかった俺の心が、彼女のたった一言でこんなにも揺らいだのだ。
その瞬間――ヤバイ、と。
「――ヤらしてくれんの?」
自己防衛を――働いてしまったんだ。
女は信じられない。いつか裏切られるに決まってる。
本気になるな。本気になった方が敗けだ。
いつかナミさんだって俺を裏切るに決まってる。
どうせ軽い気持ちの告白だろう?
――本気になるな。
今までの女にしてきたように、同じ扱いで接せばいい。
「好きな男に抱かれたくねえの?」
酷い言葉を投げつけろ。
「誘ってきたのそっちでしょ?」
最低な言葉を投げつけろ。
「欲求不満だったんだ」
――嫌われろ。
愛されたくなんか、ねえんだよ。
いつかは無くなる愛なんだからよ。