N o v e l -long-
□ First Love -もうひとつの真実-
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「諦める」
そう言ってからは、あっけないもので。
あの後、返事もせずに出ていった彼の態度は、翌日になって変わっていた。
いつもより、優しいのだ。
否、――距離を置かれたのだ。
あいつの本性を知る前の関係に戻っている。
二人きりになる事があっても、クールな彼なんてどこにも居らず、甘い甘い彼しかいなかった。
でも、仮面だと知っている私は。…仮面の下を知っている私は。
…とても甘いだなんて、感じる事ができなかった。
…それがあんたの答えってわけね…。
やめたら、と選択肢を委ねられたのは私で。
ならば引き止められる事もないと分かっていたのに、引き止められなかった事にまた傷ついて。
…彼の態度ひとつひとつに、傷が抉られていく。
どんな彼を知っても嫌いになれず、むしろ溺れていった私にとって、すぐに気持ちを切り替えろというのも無理な話だった。
それでも、そんな私でも…やはり昨晩の出来事に耐えうる強い心は持ち合わせていなかった。
私だけに見せていたと思っていた彼の外れた仮面は、ロビンも知っていたのだ。
その上、私よりも早くに関係を持ち、そして自らロビンの体を求めるという。
これだけまざまざと敗北を見せ付けられれば、やはり諦めないという選択肢を選ぶ事が出来ずに今に至る。
勝手な話だが、"裏切られた"――そんな気持ちなのだ。
「サンジ君はああ言ってたけど…」
きっと彼は、ロビンの事が好きなのだと思う。
そして彼女も、彼の事が好き。
彼女の彼を見つめる眼差しは、愛しさに満ちている。
それを知っても素直に二人を応援できないのは、私がまだあいつを好きで、諦められていないという事。
ロビンの事は好き。彼女にだって幸せになってほしいと思う。
でも、実のところあの出来事以来…まともに口を聞いていない。
数週間経った今、表面上では何気ない会話だって交わすし、一緒に笑い合ったりもする。
けれど今まで、核心に触れないままなのだ。
あんなに気まずい別れ方をしておいて、それが話題に上がる事がないだなんて有り得ない。
…そう、私が逸らし続けてるのは分かってる。
ロビンは何度か、私に向かって何かを話そうとしてくれた。
その度に私は、急用を思い出しただとか、チョッパーに呼ばれた気がするだとか、何かと理由をつけて避けてきた。
だって――つらすぎるもの。何を話す気なんだろうって、怖いもの。
このまま、たった一時に見た夢だったんだって、思わせてくれないかな。
サンジ君とも、ロビンとも、このまま接していけば元通りにならないかな。
このまま、ただ、ただ時が過ぎて――傷が、癒えてくれないかな。
そう、願いながら…いつの間にか気持ちの良い気候に包まれ、蜜柑畑で寝てしまった。