N o v e l -long-

□First Love -暗雲-
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今日も私たちは街に船を泊めている。
みんなが揃ったら出港だ。
昨日、今日だけで長居をする予定もなかったから、宿は取らなかった。


それぞれが出て行って、そしてまた夜になればそれぞれが帰ってくる。
今日は街でサンジ君を見かけなかったな。
まあ、そう毎回都合よく鉢合わせないか。

ちょっと期待なんてしてたけど、そう上手くいくなんて思ってなかったし。
いいの、いいの。
昨日サンジ君と一緒に歩いた道を辿れただけでも、楽しかったし。

――私ってこんなに乙女だったかしら。

ちょっとした自己嫌悪に陥りながら、ダイニングに向かう。
あら、もうサンジ君は帰ってたみたい。

「お帰り、ナミさん」

「ただいま。そろそろ晩ご飯?」

ちらりと時計を見てから尋ねる。船で食事をする時は、大体決まった時間なのだ。

「ああ、それが晩飯はもうちっとかかるから、先に風呂にでも入っててくれるかな?」

なんだ、楽しみにしていたのに。どうやらもう少しだけお預けみたい。

「珍しいのね。ご飯の時間が遅れるなんて…ロビンにも伝えてくるわ」

「ロビンちゃんなら、先に入ったって言ってたから。ナミさん入ってきて大丈夫だぜ?」

「そうなの?」

料理に夢中で、私の目を見て話そうとしないから。
ちょっとした悪戯心が働いた。

…後ろから、抱きついてやろうかとでも思ったの。
私をちゃんと見なさいよって。
ドギマギしてくれるかな、なんてワクワクしながら。

もう少し、もう少し――あと数歩で、サンジ君に触れられる。

「サーンジく…」

『サンジ君』そう言いかけようとして、言葉が途切れた。

近づく事で分かった、サンジ君から僅かに香った――コロンの匂い。
…女物――。

「ナミさん、どうした?」

今日も街に出ていた。
きっとナンパでもした女の移り香だろう。
…そう、そういう事。だから遅れたのね、ご飯の準備。

「…なんでもないわ…」

そう簡単に、人間変わるわけないって分かってるの。

いい、いいわ。期待なんてしていなかった。

そうよ、期待なんて――。
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