N o v e l -long-

□First Love -温かな腕-
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サンジ君の本性を知ってから数ヶ月が経った。
あれから私たちの関係は、進んだようで、進んでない。

体の関係があっても、心は――無なのだ。

求めれば抱いてくれる。
向こうから求めてきた事は初めの一回、それっきり。

――分からない。
彼の考えている事が、分からない。
好きでもないのにどうして抱けるの?

一度彼にそう質問をぶつけた事がある。
そうしたら彼は、少し面倒臭そうな顔をして

「――ナミさんが望むから?」

と答えた。
それを否定できない私は、彼のそんな態度を責める事もできなくて。

前より、溺れている気がする。

…私だけ。


拒まないんだから、脈があると思ってた。

なのに――。

彼に言わせれば求められれば拒めないらしいのだ。
理由はレディに恥をかかせるわけにはいかないから。

拒まない方が傷つくこともあるってこと、彼なら分かってると思うんだけど。

――ああ、どこまでも最低な男。

私の気持ちを弄んで。

「…やだなぁ、もう…」

涙が溢れ出てくる。
止まらない。

「覚悟して望んだつもりなのに…」

夜風が私の頬をくすぐっては流れてく。
それでも乾かしきれないほど私の涙はとめどなく溢れて。

「ぅ…っ」

「ナミさん?」

その声にビクリとした。
今一番会いたくないやつが現れたのだ。

「な…っな、に…っヒック」

ああ、嗚咽を堪える事ができない。
サンジ君の前で泣くなんて事絶対にしたくなかったのに。

これじゃあまるで、アナタを諦めますと言ってるようなものじゃない。

「…泣いてるの」

女々しい。

「俺のせい?」

強い私だけ見てほしかった。

「…ナミさん…」

カッコ悪く泣きじゃくる私を優しく包み込むものがあった。
さっきまで私の頬を撫でていた潮風も今はない。

「サ、ジく…っ」

「ごめんね」

いつもの彼とは違う気がした。
私を抱く腕は、優しくて、それでも力強くて――温かくて。

「…ごめん」

ぎゅっと私を抱く腕は、まるで私の顔を隠すように抱き締めてくれていて。

ああやっぱり、この人が好きだ――。

何度も身体は重ねてきたけど、この日が一番気持ちよかった。
ただ抱き締められているだけなのに。

何故こんなにも落ち着くの?

まるで大丈夫だよって言ってくれてるみたい。



蜜柑畑の木々に囲まれながら、二人寄り添う。
サンジ君は泣き止むまで一緒にいてくれた。

時折潮風の他に何度か煙草の匂いも香ってきたから、相当時間も経ったのだろう。

穏やかな時間が流れて…。



――勘違いしてしまいそうになる。

優しい彼に、勘違いしてしまいそうになる。

これも泣いているレディを放っておけないとか、そんなのかしら。
だったらさっきの謝りは何?
何に対しての謝罪なの。

――やめて。

…やめて、やめて…っ

分かってるなら傷つけないでよ!
期待持たせるようなことしないで!
同情ならいらない!
この腕を離して!



「サンジ君…っ」



「…好き…」



「…うん」



ああ、私はまた――墜ちて行く。








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