N o v e l -short-

□Every Day
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Every Day




"きっかけ"は、この一味にしては珍しい恋愛談話だ。
しかも野郎のみの。

俺はアイツらの恋愛話なんてどうでもよかったし、それは他のヤツらも同じなようでゾロにいたっては居眠り、
ルフィは それってうまいのか? などと馬鹿げた事を言っている。
なんとも盛り上がらねェその話題はただ1人が盛り上がっているがために延々と続けられた。

チョッパーだけが律儀にすげーっだの、おーっだの歓声を上げて反応を返してる。

お喋りと言ったらお得意なのはこの船の中じゃ決まっていて。
ウソップのヤツがさっきから同じ話を何度もしている。

分かった、分かったよ。
お前のお嬢様話は何度も聞いたよ。
それにしたって、コイツにそんな相手が居ることに驚きなんだが。

「全く話にならねえな〜!お前ら恋ってもんをしたことがねーのか?」

コイツらにんな分かりきってる事を聞くな。

「俺の気持ちを分かってくれるのはお前だけだよサンジ」

うお、俺に火の粉が。

「お前とナミは?」

「好きになったきっかけだよ〜!ほらほら、今なら遠慮せずにのろけていいんだぜ。
このウソップ様が聞いてやるからよ!」

「アホくせえ。」

「きっかけだのなんだの、大切にするのはいい事だが他人に喋りまくるんじゃガキだぜ」

延々ときっかけについてを喋り倒していたうちの狙撃手に皮肉混じりに返してやる。

「なんだとー!?俺はな、」

悔しさからまた話が長くなりそうなのは目に見えていたので早々にその場から離れた。


――ふと、そんな馴れ初めの話をナミさんとした事がないなと思い返してみる。
早くその場を離れたのだって実はナミさんが俺を好きになったきっかけなんてものを知らないからだ。
知らなければ、話しようがない。

そうと分かったらそればかりが気になり、今こうしてしつこく聞いている俺もあの長鼻に負けず劣らず、ガキなのだが。

だってナミさんのことだったら、何だって知りたい。
それが俺の事となれば当然。


「きっかけ、か――分かんない。いつの間にか好きになってたなぁ。」

「それはそれで嬉しいけど…ほんとに、分かんねえ?」

温かなカップを両手で包みながら薄く微笑みを浮かべて穏やかに喋る彼女は、なんてことない誰もがする仕草で、
街でだってどこでだって、色んなレディで見慣れた光景なはずなのに。

――見惚れるくらいに、綺麗で。


ああ、恋するレディは綺麗だ。
あんまりにも綺麗なもんだから、その目の前の彼女に触れたくなったり、本来の目的を忘れそうになる。
が、ここはなんとか思考を現実に戻して。
なんとしても、ナミさんが俺を好きになった理由を、知りてェんだ。

「もう、欲張りね。確かにきっかけはあったと思うけど…それも思い出せないくらい、
私にとってサンジ君を好きになるのは自然なことだったんだと思う。」

その言葉は俺を天にも昇らせた。
ああ凄ェ、ナミさんってば本当に凄ェ。
たったその一言で俺の心はこんなにも晴れやかだ。
まるで霧がかった視界が晴れてくように。

「サンジ君は?」

「え?」

「私にこれだけしつこく聞いといて、あんたはきっかけあるんでしょうね?」

話しなさいと無言の訴え。

言われてみれば俺も同じだ。
きっかけと言われても、気づいたら好きになっていたとしか言いようがない。

――でも、

「初めてナミさんを見た時。」

「え?」

「だから、初めてナミさんを見た時。」

先程の俺と同じように短く問い返してくる、少しお間抜けな彼女が可愛い。

「…それ、きっかけって言うの?」

「もちろん。俺は一目見た時からナミさんの虜。デスティニーを感じたね。
ナミさんを好きになったきっかけって言ったら、それは俺たちの出会いそのものさ。」

「やだ、一目惚れってこと?」

「そ」

恥ずかしげもなく即答してみせたからだろうか。
俺をからかったつもりの彼女は頬を薄く染めている。
でもそんなの無意味。

「ナーミさん」

あんなに素敵な言葉をもらっちまったんだ。
からかいなんて無意味。

「何よ」

「ずっと一緒にいようね」

「…何で。」

「二人して運命感じたから」

「わ、私は何もそこまで言ってないでしょ!」

「俺を好きになる事は自然な事。つまり最初から決まってたってコト。
――これって、運命と同じこと、なんじゃないの?」

「……」

ああ、真っ赤な彼女がクソ可愛い。
照れ隠しで素っ気なくしちまう強気なところだって全てが愛しい。
こんなに可愛くさせてるのが自分だってことも、死ぬほど嬉しい。

「ナミさん、ずっと一緒にいようね」

「…仕方ないわね」

「アンタが隣にいるのも、もう自然なことだし…」

「一緒にいて、あげる」

「うん」

他愛もない恋人同士の会話。
その中で不器用に言葉を紡ぐ君を俺は酷く愛しく思い、
こんなに愛しい時間を過ごせる事を嬉しく思い、
そしてこの愛しい時間をこの先も共有する約束を交わし。


…今日も愛しい一日が、終わる。


そんな日常。






Every Day
Fin.

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