N o v e l -long-

□ First Love -もうひとつの真実-
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「…彼はね、初めて関係を求めてきた時、とてもつらそうだった。」

予想はしていたが、初めを求めてきたのもやっぱり彼で、聞きたくなかったけれどなんだか聞かなきゃいけない気がして。

「ある人の存在が、自分の中でどんどん大きくなっていくんですって。」

自分の事をある人と語る事に違和感を覚えた。
今更ぼかさなくたって、私は傷つきゃしないのに。
…なんて、ハッキリ名前を出されると傷つく事は、私が一番知っている。
彼女もそれを知っていてそうしてくれたのだと思うと、その優しさに自然と涙が込み上げてきた。

けど、続いた言葉でぼかされたその人物が、ロビンじゃないという事に気づかされる。

「忘れたいって。忘れさせてくれって。――きみを利用させてほしい、ハッキリと――そう言ったの。」

私に向けた瞳と、同じような――愛しい、瞳で。

「私もつらそうな彼を慰める方法はそれしか知らず、求められるままに受け入れた。」

彼の事を語る。

「彼はね、その人を抱いた次の晩は、必ず私を抱きに来た。
…彼は、その人の温もりが、感触が―― 一日経っても忘れられずに、忘れたくて、私を抱きに来ていたのよ。」

…何を言っているんだか、理解できず

「私の身体だったら、抱いたって一日で忘れられるの。」

右の耳から左の耳へ、抜けていっていた気がした。

「失礼でしょう?」

そういう彼女の顔は、怒ってなんかおらず。はては悲しんでいるのかと思うと、そうでもなく。
――輝かしいばかりの、笑顔。

「でも、私は怒りなんて沸いてこないわ。そんなにもその人を愛しているんだって、逆に微笑ましくなる。」

とんでもない話を聞いているはずなのに、その笑顔が綺麗だなんて、関係ない事を思ったりして。

「――覚えてる?あの時、私のコロンの香りであなたは気づいたでしょう?」

忘れる筈がない。あの時の衝撃といったらなかった。
どこか上の空で聞いていた信じられない事実に、その時やっと現実に引き戻された気がした。

「私と関係を持ちながら、その関係を決してその人に知られたくなかった彼は、今まで一度もボロを出さなかった。」

ついさっきまで、続きなど聞きたくもなかった私だが、

「その彼が、私の残り香をそのままに料理に取り掛かるなんて、かなり動揺していた証拠だわ。」

「――何、に?」

今までずっと押し黙るように聞いていた私が、その時初めてロビンの話題に加わった。
すると、それはそれは嬉しそうに。

「――普通に、デートをしてしまったんだって。愛しい彼女と。幸せすぎて、想いが大きくなる一方で、恐かったんだそうよ。」

実に嬉しそうに、語るのだ。

「その人に愛されるわけなんかないのにと――その幸せな時間を、忘れさせてほしいって。
彼女の流した涙も、見てるのはつらいと――そんなにも彼を苦しめて、夢中にさせるその人って、一体誰なのかしらね?」

悪戯に細められたその瞳も、やっぱり優しさに満ちた色をしていて。
先程から話題にあがる"その人"とは、誰の事を指しているかなんてきっともう、猿だって分かる。

「このまま溺れていくのが恐いって、そう言ってたわ。」

――溺れているのは、私の方なのに…。

「彼は、愛される事を――酷く恐れているの。」

「それが何故かは分からないけど、きっとあなたなら、彼を…愛す事が、できるんじゃないかしら」

ロビンの挑発めいた言葉に、奮い立たされるようにして。
瞳から消えていた色が、――宿る。

「ありがとう…ロビンっ!」

あの日と同じように、私は駆け出した。
ロビンとサンジ君の関係を知ったその日。
彼女の前から逃げるようにして、駆け出した。

けど、あの日と今日が違うのは――

駆け出した、理由。

逃げるのではなく、向かうのだ。
愛しいあの人の元へ。

「どういたしまして――」

蜜柑畑の木漏れ日の中から、香り立つ潮風に乗って、伸びやかなロビンの声が背中に届いた。







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