N o v e l -long-

□ First Love -もうひとつの真実-
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さらさらと、なびく艶やかな髪がある。

さわさわと、葉の擦れる音がする。

陽射しが邪魔して顔が見えない。

逆光の中で、いつくしむように微笑むあなたは誰?

愛おしそうに私を見つめる、優しいその瞳を知っている――

「ベルメール…さ…」

「誰の事かしら?」

「――ロビンッ!?」

その声に、すぐに頭が覚醒した。
蜜柑畑で寝ていたはずの私は、もちろんそのまま蜜柑畑で寝ていたのだが、問題は寝ている体勢だった。

「な、何してんのよ!?」

見上げれば彼女の顔。
壊れものでも扱うような丁寧な手つきで、私の髪を梳くように頭を撫で付けている。
その手に戸惑いを感じて、急いで振り払い起き上がる。
消えた温もりが少し寂しいと感じてしまったけど、そんな事は今はどうでもいい。
膝枕など、今の私と彼女の関係ではぎこちない事このうえなかった。

「あら、残念。可愛い寝顔をもっと見ていたかったのに。」

「答えになってないわよっ!」

完全に逃げるタイミングを失い、彼女と今こうして二人きりで話すしかない状況に追いやられたのだと、他愛も無い口論をしてから気づく。
今まで避けてきた事が無意味になってしまったと、見つかりやすい蜜柑畑で無防備に寝てしまっていた自分に腹を立てた。

「最近、あなたとゆっくり話していないと思って。恋しくなってしまったの。」

「はあ?」

「寂しくなってしまったから、来てみたのよ。」

「…そう…」

「ふふ、これって恋かしら?」

無神経にも程があるとは、彼女の事じゃないだろうか。
今の私の状況を知っていながらふざけた事を言う彼女は、例のあいつといい勝負だと思う。
ありったけの皮肉をこめてこう言ってやろう。お似合い。

「……ロビンが恋してるのは、」

「ねえナミ。あなたも、こんな気分になる事はない?」

私の言葉を遮って聞かれた質問は、遠まわしのような直球のような、そんな質問だった。
何が言いたいのか、何が聞きたいのか。
彼女の狙いが分からず、警戒心あらわに口を結ぶ。
とにかく動揺などしてたまるものかと、まるで何かの勝負事に挑むかのような感覚で心にそう決めた。

「私は、よくあるのよ。そういう事。」

惚気話でも聞かせにきたのだろうか、すぐにでもここから立ち去りたいが、私の意地がそうさせない。
ただ黙って話を聞く。

「…それはね、金髪の彼…」

「……」

「それにルフィ、ゾロ、ウソップ、チョッパー…フランキーにブルック。もちろん、あなたにもだわ。」

思わせぶりにサンジ君の特徴を挙げた後、酷く優しい声色で、仲間全員の名を挙げた。
わけが分からずに、早くも心に決めた自分だけへの約束ごとは崩される事になる。

「…何、が?」

「私は全員を、愛しているの。天秤にかけたって、1ミリの狂いもなく、平等にね。」


…つまりは、どういう事なのだろう。


「…だから、あなたに避けられていて、とても哀しくて、さみしかったの。」

照れ臭そうに、それでも哀愁を感じる彼女の笑顔には、嘘はひとつも隠されていない。
そんな表情をさせてしまった事に、なんだかとても申し訳なく思った。
早々に先程までの戦意を失った自分に、やはり私も彼女の事が大好きなんだと、思い知らされる。

「…彼と身体を重ねてしまった事は、ごめんなさい」

「…なんでロビンが謝るの?…私こそ、馬鹿だわ。ロビンの気持ちも知らずに…」

「いいえ、違うのよ?…私は、全員が好きなの。彼だけが特別じゃない…いえ、彼も特別。私にとっては、あなたたち全員が特別だわ」

やっぱり私は彼女が何を言おうとしているのか、真意が分からなかった。
彼女は、彼の事は好きじゃない?でも特別?彼じゃなくて、全員が?
戸惑った視線を向けていたからだと思う。更に言葉を付け足すようにして、説明が続けられた。

「つまり…例えば、あなたに関係を迫られたとしたら、私はそれに応じていた。」

「ロ、ロビン!?何言ってるの?」

「ふふ、ただの例よ。それほどに、私はあなたを愛しているってことなの」

「あなたが好きな彼でも、ルフィでも、ゾロでも誰でも…私の特別な存在に求められたら、断れるわけがないわ」

ああ、私がベルメールさんだと勘違いした…あの愛しさに満ちた彼女の笑顔は。――嘘では、なかったんだ。
あの優しい、頭を撫でる手も。母のように、見つめる瞳も。

「分かってくれた?」

その問いかけに、ひとつ簡単に頷いて。
ロビンは彼を好きだけれども――好きではない、という事実。
彼女は優しい人だから、きっとまだ彼を諦めるなと励ましてくれているのだろう。
確かにロビンが彼を好きでないのならば、まだ可能性はあるかもしれない。
でも――

「サンジ君は、ロビンを、…求めたのよね。」

それは、変えられない事実で。
彼がロビンを好きだという事は、明白だ。
だって、彼は彼女を求めたのだ。
それが好きだという感情でないにしても、一度も求められたことなどない私にとって、きっと彼の中での存在価値は、ロビン以下だ。
…人に順番をつけるなど、本来したくもないし、絶対にしない。
それでも、現実をきちんと知ろうとするためには、そう考えるしかない。

彼が彼女を好きで、彼女も嫌いではなく好きなのであれば。

…それを応援した方が、いいのではないか。
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