N o v e l -long-

□フィッシングゲーム
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「…ナーミーさーん」

「あ。早く上がってきて。一人じゃ大変」

「う、ん…」


いつも通りじゃないサンジ君は、何か言いたそうな顔。
何を言いたいかなんて分かってるけど、焦らすように私はいつも通りに指示を出した。

気にしてなんかないって態度と、気にしてますって態度。
昨日とは逆の関係に、勝手に勝った気分になった。
味わえばいいのよ、私が感じたいやーな気持ち。

「ねえ、ナミさん…」

そうこうしている内に、遂にサンジ君が口火を切った。
私も、蜜柑をもぎ取る手に、力が入る。

ここからが、本当の勝負。

「この間の事だけど…」

「なぁに?」

「えっと、……。」

多分、何度も悩んだの。サンジ君の事しか考えられなくなった私と同じように。
あの日の夜のこと。同じ気持ちで、気にしてくれたんだ。

「……ごめん、調子に乗りすぎた。
なんつーか、俺も男だから、ナミさんみてえな魅力満点なレディにあんな事されたら、煽られるっつーか」

「…謝らなくていいわ。」

「…いやでも、」



さあ、サンジ君。



「誘ったんだもの」

「え?」



どう反応するの?



「誘惑、したの」

「…、…ナミさ」



木の幹に、サンジ君の体を押し付けて。



「…!?」



体を、寄せる。



「サンジ君…」



顔を、寄せる。



「…ん…」



唇を、…重ねる。



「……!」



先程までおやつを作っていた彼の唇は、ほんのり甘くて。
もう一度おやつを食べてるみたい。
体を押し付けたように、ただ唇を押し付けるだけのキスは、決して大人のキスなんかじゃなく。
そんなキスなんかに満足しないで、また男の顔を覗かせて、噛み付いてくるものだと思っていた私の予想は。




大ハズレ。




「あんた…ポーカーフェイス、上手ね。」


そこには、まるでリンゴみたいに真っ赤に熟れた、サンジ君の顔があった。


「ナ、ナミさ…」

「ふふ、顔真っ赤」

「!」


私に迫って、忠告して、余裕を見せて、からかって。

今までのは、全部ポーカーフェイスだった?

だとしたら…

やだ、可愛い。

やっぱりこいつ、純情なんじゃない。


「ごちそうさま。今日はもういいわ。」

「ちょ、っと待ってナミさん。」

「夕飯、楽しみにしてる」

「ナミさん!」

苛めるみたいな態度で悪いけど、そのまま蜜柑畑から出て行った。
ふふ、気分、上々。
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